2024年12月4日(水)

Wedge REPORT

2024年7月3日

 今日から紙幣が刷新されました。新1万円札の肖像は渋沢栄一です。渋沢といえば激動の幕末・明治期を生き、500近い会社を興したことで知られています。また、その人生哲学をまとめた『論語と算盤』は、不朽の名作としてビジネスパーソンなどに読み継がれています。渋沢が著してから100年以上も経ついま、「新1万円札の顔」が示唆することとは何でしょうか。
 本記事は、渋沢の玄孫(5代目)にあたる渋澤健氏(コモンズ投信会長)による監訳本『超約版 論語と算盤』(ウェッジ刊)から引用したものです。
新1万円紙幣(Stanislav Kogiku/アフロ)

100年以上読み継がれる『論語と算盤』

 新しいお札の顔として注目を集める渋沢栄一。多くの事業を興し、「日本資本主義の父」とも呼ばれる彼の言葉を集めた講演録が『論語と算盤』だ。

 『論語』は、古代中国の思想家である孔子の教えをまとめたもので、道徳などについて述べている。渋沢の場合、ただこの『論語』について説明しているのではなく、同時に算盤、つまり経済について論じているのだ。道徳と経済活動が一致すべき、それが渋沢の考えであった。

 この『論語と算盤』は、1916(大正5)年に初版が刊行されてから現在に至るまで、経営や生き方の参考として、じつに多くの人に読み継がれてきた。ただ、やや難しい言い回しの多い書籍であるので、少しハードルが高いように感じる人もいるかもしれない。

 渋沢が生きたのは、日本の社会が近代化に向けて大きく舵を切った変化の時代であった。当事者が好もうが好むまいが、変化は否応なく訪れるものだ。そして、社会が変化する時代に、人々がかならずぶつかるのが、「本当に大事なものは何か?」という問いであろう。

 変化のなかで渋沢が目指していたのは、国民が豊かに、機会平等な社会で暮らせることであった。また、当時の日本社会には、西洋に追いついたことで、おごりのようなものがあった。それを一度リセットし、なぜ自分たちが発展できたのかを見直し、原点回帰しなければ、子どもたちに豊かさをバトンタッチできないかもしれない、そういう危機感も渋沢にはあったように思われる。

 一人ひとりの行動、思いというものはけっして無力ではない。ベクトルを合わせられれば、大きな時代変革を起こすことができる。今は、そんな時代の節目を迎えているのではないかと考える。


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