2024年10月6日(日)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年7月5日

モザイクを組み立てる中国

 中国政府がデータを集める方法は、直接的方法と間接的方法がある。直接的方法とは、いわゆるハッキングである。中国の諜報機関などが契約するiSoon社などの民間のハッカー集団に指示して、他国の軍需産業や宇宙産業などの組織が持つデータを盗ませていることは、三菱電機や宇宙航空研究開発機構(JAXA)の例を挙げるまでもなく承知の通りである。

 間接的方法とはソーシャルメディアのTikTokや大手通販サイトのTemuといった民間企業を通して断片的な情報を集める方法である。いわゆるモザイク理論(mosaic theory)、別名コンパイル理論(compilation theory)に基づくデータ収集である。

 モザイク理論とは、個々の情報は、それ自体では重要でないように見えても、他の関連するデータと組み合わせることで、重要な洞察を得ることができるという理論である。「データ要素×」は正にモザイク理論に基づく国家戦略なのだ。

 IT企業が掲げる利用規約には、一様に「お客様は、当社の規定に従って、当社がお客様の個人情報 (お客様のアカウントおよびユーザー情報を含む) を収集、アクセス、使用、保存、開示する場合があることを認め、これに同意するものとします」とあり、利用者はTikTokやTemuの一方的な利用規約に同意させられており、表面的には合法的にデータ収集されているのである。

 直接的方法は、誰の目にも明らかでわかりやすい。ただ本当に中国によるものなのか確認する方法がなく、ほとんどは状況証拠による推測にすぎないものの、警戒はできる。

 問題は、モザイク理論によるデータ収集である。データが収集され集積されることによって確実にプロファイリングされていることに気づかず、利用者としての個人にその危機感はない。直接的方法すなわちハッキングにより収集された個人情報と間接的方法により収集されたデータの統合が中国政府はできるのだ。

 統合され、プロファイリングされた個々人のデータは、特定の個人の諜報にも利用されるが、大多数の個人の情報は、世論誘導に利用される。SNSを通して流布される情報は、プロファイリングされたデータからその虚偽の情報を信じやすい人に発信されるのだ。相次ぐハッキングの被害や中国製アプリの氾濫が続くようだと、中国の意のままに日本の世論が形成されることも近い将来起こりうると考えた方がよい。

中国のデータセンター事業者が日本に進出

 そうした懸念がある中、中国のデータセンター事業者GDS(Global Data solutions Limited : 万国数据控股有限公司)が、日本に進出してくる。東京都府中市の府中インテリジェントパーク内の隣接する2つの区画に総受電容量40MW(メガワット)、約4000ラックを収容可能なデータセンターを建設する予定で、26年に稼働予定だ。48MWといえば最大級のデータセンターであるが、すでに拡張計画もあるようだ。

 GDSは、2000年にウィリアム・ウェイ・ホアンが上海に設立したコロケーションやハウジングサービス(いずれもデータセンターの専有スペースのレンタルサービス)を主に手がける会社だ。01年に深センデータセンターを開設したのを皮切りに、北京、上海、広州、成都の5カ所でデータセンターを開設しており、中国政府がデータセンター産業の発展のために支援している会社である。


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