2024年10月27日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月10日

 米国は、ロシアと中国を合わせた核戦力に見合うものを目指すべきなのか、それとも一カ国の核戦力に見合うもので良いのか。それに対し、ロシアと中国はどのような反応をするのか。

 バディ上級部長は、米国は「より良い」核戦力を目指すが、必ずしも「より多い」核戦力を目指すものではないと述べた。米国は、「競争相手の国を抑止するのに、これらの国の核戦力を合計した数やそれを超える数まで核戦力を増やす必要はない」と上級部長は述べた。それは良いが、この考え方が将来の軍拡競争においても成り立つのか、また、ロシアと中国も同様の計算をするのかは保証の限りではない。

 理想的には、積極的な外交によって中国をロシア、米国との三者間の交渉に参加させるのが良いが、その見通しは暗い。

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バイデン政権も核増強の方針か?

 中露の核軍拡への米国の対応については、「二つの同等の核大国」への対応として米国で盛んに議論されている。上記は、これに関して、米国NSCのバディ上級部長が6月7日に軍備管理協会で行った演説を紹介しつつ論じたワシントン・ポスト紙の社説である。

 米国議会の超党派による戦略態勢委員会においても、米国が核戦力を数的に増強すべきかが大きな議論となっていた。昨年10月の同委員会報告書では、この点について一致した結論は出ておらず、「多数の委員は数的増強に賛成」というに止まっていた。バイデン政権には、オバマ政権の流れを汲んだ軍縮派のメンバーも多く政権入りしており、核の数的増強への方針転換は、政権内でも意見が分かれる論点である。

 バディ上級部長の発言で最も注目されるのは、「相手方の核戦力の傾向に変化がなければ、近いうちに現在の配備数の増加が必要となる状況に至る可能性がある」との指摘である。バイデン政権として、核の数的増強に向かっていくための観測気球の狙いが込められていたのではないかと思える。この社説は、それを拡散する役割を果たしたと言えよう。

 米国が核配備数を増やすということは、新STARTでの数量の上限に拘束されないということである。新STARTの期限は、26年2月5日であるが、それ以降は、無条約状態になることを想定している。

 米国にとって核配備数を増やすことは技術的にはそう難しいことではない。米国のICBMミニットマンIIIは3発の核弾頭を搭載できるMIRV(複数個別誘導再突入体)仕様であるが、現在、1発の核弾頭のみを搭載する単弾頭ミサイルとして運用されている。これが500基あるので、これに保管中の核弾頭を搭載して多弾頭化することによって、配備される核兵器の数を増やすことは可能である。


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