2024年7月19日(金)

BBC News

2024年7月19日

クリス・メイソン政治編集長、サム・フランシス政治担当記者

10月に退任する北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長はBBCに対して、欧州はウクライナでの戦争が10年間は続くものと覚悟する必要があると話した。その一方で事務総長は、ウクライナ戦争には「逆説」が内在しており、NATOが戦争支援に長く注力すればするほど、事態の解決が素早く近づくはずだと話した。

10年間の任期を終えて今年10月に退任するストルテンベルグ事務総長は、ウクライナでの戦争が10年以上続く懸念はあるかという質問に、「ある」と答えた。

そのうえで「しかし大事なのは、ウクライナ支援を強化し、長く支援し続ける意思があれば、その方がこの戦争は早く終わるということだ」との見方を示した。

「逆説的だが、(ロシアの)プーチン大統領は、我々がこの戦争から撤退するのを待てると考えている。だから戦争が続いている」

「だからこそ、我々がじっくり腰を据えてウクライナを、強力に忍耐強く支援する用意があると明確に発信すれば、ウクライナが独立した主権国家として永らえるための解決に至る条件が整う」

NATOはこの間、ウクライナ支援を調整する指揮部隊を9月からドイツで稼働させると発表している。

「これによって事態の予測可能性が高まり、責任も明確になり、支援も増強できる。NATOが今後じっくりウクライナを支えるつもりだと、明示することになる」と事務総長は説明した。

「今こそ自由と民主主義のために立ち上がる必要があるし、その場所はウクライナだ」

他方でドイツはこの間、ウクライナへの軍事支援を来年度、ほぼ半減させる予算案を承認した。現在の約67億ユーロから約34億ユーロに減らす見通し。

ドイツのクリスティアン・リントナー財務相は、凍結したロシア資産の利子から500億ドルをウクライナが受け取ることで主要7カ国(G7)が合意していることから、ウクライナの資金繰りは「当面は安泰だ」と述べている。

ウクライナへの支援をめぐっては、11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が勝利すれば、アメリカからの資金が削減または停止されるかもしれないとの懸念が欧州で出ている。副大統領候補に、共和党内でも特に孤立外交主義傾向の強いJ・D・ヴァンス上院議員を選んだことからも、この懸念が高まっている。

ヴァンス議員はかつて、「ウクライナがどうなろうと実際かまわない」と発言している。

アメリカの対ウクライナ支援を声高に批判してきたヴァンス議員は、今年2月のミュンヘン安全保障会議で、アメリカは東アジアに政策の重心を「転換」しなくてはならず、そのことに欧州は目覚めるべきだとも述べている。

こうした状況でストルテンベルグ事務総長は、「強いNATOはアメリカの国益にかなう」ため、アメリカはNATOに残るはずだと自信を示した。

「アメリカでは連邦議会だけでなく世論調査でも、超党派でNATOを強く支持している」と事務総長は述べた。

トランプ政権が復活した場合、NATOの資金が減るのかという質問には、「アメリカとNATOの関係についてどう考えるとしても、我々は自分たちの防衛に投資を拡大することが正しい対応だ」と事務総長は言い、「第一に、そうすればアメリカが強力な同盟国であり続ける可能性が高まる」と説明した。

「第二に、何か本当に悪いことが起こった場合に備えて、ヨーロッパとカナダの防衛力を強化しておくべきだ」

ストルテンベルグ氏は、欧州の同盟諸国の防衛支出が不十分でアメリカに依存しすぎているというトランプ前大統領の批判は「全く正しいし妥当」だったと評価した。

ただし、「今の状況は当時から変わった」とも説明した。

NATO加盟諸国はそれぞれ、2024年までに、自国の対国民総生産(GDP)比で少なくとも2%を防衛費に充てると約束している。

32加盟国のうち今年その目標を達成したのは23カ国。防衛費が対GDP比2.3%に達したイギリスも、そこに含まれる。

ストルテンベルグ氏は、「NATOほど成功した同盟は歴史上、ほかにない。なぜなら、各国が立場の違いを乗り越えて、お互いを守りお互いに防衛するという基本理念をもとに、団結することができたからだ」と強調した。

「アメリカの選挙の後にもそうなるはずだ」と事務総長は期待を示した。

(英語記事 Europe must brace for decade of Ukraine war - Nato chief

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cj7drdvl7r9o


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