2024年7月19日(金)

BBC News

2024年7月19日

米大統領選挙に向けた共和党の全国大会は18日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで最終日を迎え、ドナルド・トランプ前大統領が、同党の大統領候補指名を受諾する演説を行った。トランプ候補は、米社会の不和と分断は癒やされなければならないとし、「自分はアメリカの半分ではなく、すべてのアメリカのための大統領になるために立候補した」と述べて国民の結束を呼びかけた。トランプ候補が暗殺未遂事件後に演説するのは初めて。

トランプ候補が壇上に姿を見せると、観衆からは大歓声と「USA」コールが沸き起こった。

演説は午後9時半(日本時間19日午前11時半)ごろから始まった。トランプ候補は演説の冒頭、国民の結束を次のように呼びかけた。

「私は今夜、自信と強さと希望のメッセージとともに、皆さんの前に立っている。今から4カ月後、私たちは信じられないような勝利をつかみ、この国史上最も偉大な4年間をスタートさせる。私たちはともに、あらゆる人種や宗教、肌の色、信条を持つ市民のための、安全と繁栄と自由という新時代を立ち上げる。この社会における不和と分断は癒やされなければならない。私たちはそれを速やかに癒やさなければならない。アメリカ人として、私たちはひとつの運命と共通の宿命によって結ばれている。私たちはともに立ち上がる。さもなくば、私たちはばらばらになる。私はアメリカの半分ではなく、すべてのアメリカのための大統領になるために立候補した。なぜなら、アメリカの半分のために勝っても、その中に勝利はないからだ」

そして、「だから今夜、信念と献身さとともに、誇りをもって大統領候補の指名を受け入れる」と述べ、連続3回目となる共和党の大統領候補指名を正式に受諾した。

共和党の全国大会は15日に始まった。トランプ候補は会場に連日足を運び、そのたびに拍手喝采を浴びた。しかし、最終日までマイクに近づくことはなく、VIP席に着席していた。

比較的落ち着いた口調で

会場で取材するBBCのアンソニー・ザーカー北米担当編集委員によると、トランプ候補は比較的落ちついて話した。

トランプ候補は重々しい口調で演説を始め、暗殺未遂事件に言及した。観衆がじっと聞き入る中、声を抑えるように話した。

その後、本人らしいアドリブを交じえながら、より定型的な政治演説へと移った。それでもなお、その語り口は比較的落ち着いていた。

トランプ候補の選挙演説は通常、聴衆との間で騒々しいやり取りが繰り広げられるが、今夜はそうした流れはなかったと、ザーカー記者は指摘した。

「神が自分に味方」、銃撃事件を語る

トランプ候補が壇上で演説するのは、13日に東部ペンシルヴェニア州バトラーでの集会で銃撃されて以降初めて。

「皆が(事件について)私から話を聞くことは今後二度とないだろう。あまりにも痛みをともなう話なので」と、トランプ候補は群衆に語り、以下のように話した。

「大きな、ヒューヒューという音がして、自分に何かが当たったのを感じた。右耳に、本当に強く何かが当たったのを感じた」

「『うわあ、何なんだ。銃弾としか思えない』と考えながら右手を耳にあてて下ろしたら、手が血まみれになっていた」

「すぐに本当に大変なことが起きていると、攻撃を受けているとわかって、床に伏せた」

トランプ候補はさらに、「そこらじゅうに血が流れていたが、それでもある意味ではとても安全だと感じた。神が自分の味方をしてくれていたので」とし、次のように続けた。

「もし最後の瞬間に頭を動かしていなければ、暗殺者の銃弾は完全に命中していて、私は今夜、あなた方と一緒にはいなかっただろう」

「私は今夜、ここにはいないはずだった」

「私がこのアリーナであなた方の前に立っているのは、ひとえに全能の神の恩寵(おんちょう)のおかげでしかない。これは天の配剤の瞬間だと、たくさんの人がそう言っている」

トランプ候補が、13日の銃撃で犠牲になった男性への敬意を表する場面もあった。

「彼は、飛んでくる銃弾から家族を守るために、無私の心で人間の盾になり、命を落とした」

男性はボランティアの消防士で、ステージ脇には消防服とヘルメットが置かれた。会場で取材していたBBCのケイラ・エプスタイン記者は、トランプ候補が消防服に近づいていくと、記者の近くにいた数人の代議員が感極まった表情を見せたと報告した。

不法移民、北朝鮮について

トランプ候補はメキシコと接する南部国境での不法移民の流入について、「侵略行為」だと改めて述べた。

「私たちは、自分たちのことを笑い者にしている世界のごみ捨て場になっている」

そして、自分が再び大統領になれば、「この国史上最大の強制送還作戦を開始する」とした。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記については、「核兵器をたくさん持っている人と仲良くなるのはいいことだ」と語った。

そして、金氏が「自分のことを恋しく思っている」と思うとジョークを飛ばすと、会場からは笑い声が上がった。

バイデン氏が世界を「戦争の惑星」に変えたと

世界各地で続く争いに関しては、「私たちの対立候補(ジョー・バイデン大統領)が、平和な世界を引き継ぎながら、戦争の惑星へと変えてしまった」とトランプ候補は支持者に語った。

2021年にアフガニスタンの駐留米軍が撤退したことについては、「無秩序な」撤退だったとし、武装組織タリバンが戦争で荒廃したアフガニスタンを電光石火で征服した責任はバイデン氏にあると厳しく批判した。

トランプ候補は、「その大惨事によってロシアは勢いづけられ、ウクライナに侵攻した。イスラエルは同国史上最悪の攻撃を受けた。今や中国は台湾を包囲している」と述べ、全く異なる外国の紛争を結びつけようとした。

イスラエルのような防空システムを構築すると

防衛については、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」のようなものを米全土に構築する可能性を示唆した。

「私たちは軍備を増強し、ミサイル防衛システム・アイアンドームを構築し、敵がこの国を攻撃できないようにする。この偉大なアイアンドームはすべて、米国内でつくられる」

複数の軍事専門家は、その潜在的なコストと現実的な効果の両方を念頭に、トランプ候補のアイデアに懐疑的な見方を示している。

「米全土を防衛することはできない。非現実的だし、費用をまかなえず、実現不可能だ」と、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の元トップ、グレン・ヴァンヘルク大将は先月、米ABCニュースからこのアイデアについて尋ねられた際にそう述べた。

演説が終わると壇上には妻メラニア氏が登場し、トランプ候補が頬にキスをした。

長女イヴァンカ・トランプ氏とその夫ジャレッド・クシュナー氏のほか、長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏、次男エリック・トランプ氏も家族と一緒に登壇した。

トランプ氏の演説は1時間半以上におよび、テレビ放送された大統領候補の指名受諾演説としては歴代最長となった。

(英語記事 ‘I shouldn’t be here’ - Trump recounts shooting near-miss in marathon convention speech

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cg3ezyrg0wvo


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