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クリス・メイソン BBC政治編集長
私は多くの政治家にインタビューさせてもらえる。
そして正直に認める。私は政治家が好きだ。
皆さんの代わりに政治家を点検し、皆さんが答えを必要としている事柄について、政治家に質問する。それが私の仕事だ。
その一方で、公職に就くというのは、志の高い行為だと私は思っている。
多くの政治家は、政治以外のことで生計を立てたほうが、もっと穏やかで楽な暮らしができるはずだ。それに、そうした方が収入は多いはずだ。
けれども民主主義が機能するには、公職に就くことを良しとする人たちが必要だ。公職に就いて、それにつきものの個人攻撃に身をさらすのを覚悟の上で。
そして私は時折ありがたいことに、特に抜きんでた政治家に会う機会に恵まれる。
ウォロディミル・ゼレンスキー氏はそういう政治家だ。少なくとも私が話をする政治家の中では。なぜなら、彼は戦時下のリーダーだからだ。
ウクライナでの戦争では、間接的にとはいえ、西側の価値観や本能や利益がロシアと対決している。そしてその戦争において、一つの国と国民が、敵の猛攻にさらされている。ゼレンスキー氏はその国民を体現する存在だ。
テレビのコメディアンで俳優だった彼は、今や自国の大統領だというだけでなく、同胞の国民が存亡の危機にさらされている、まさにのるかそるかの局面での大統領となった。その結果、世界で最も顔を知られている一人になった。
その彼がイギリスを訪れた際、私は皆さんの代わりにいくつか質問をする機会を与えられた。そういう場に招かれるとは、なんてありがたいことだろう。
ロシア政府に命を狙われている人物だ。なので予想通り、周囲の警備は屈強なものだった。
ゼレンスキー氏が約1年半前にロンドンを訪れ、ウェストミンスター宮殿でイギリス議会を前に演説した際、私は現場で、そのコミュニケーション能力の高さを目の当たりにしていた。
そして今回、一対一のやりとりでも、その能力を再び目にすることになった。
とても英語が上手だが、長いインタビューになると(私たちのは約40分だった)、ゼレンスキー氏はウクライナ語で答えることが多い。特に、言葉遣いの正確さが重要だと本人が思う内容についてはそうだ。
なので私たちは、英語に切り替えるのを本人が楽しんだ時を除いては、通訳を介して話をした。
私はあえて、ウクライナ社会上層部の本質的な病理とは言わないまでも、そこにがっちり組み込まれているように見える汚職体質について、尋ねてみた。
外国の私たちがそれを知っていること自体、いかにウクライナ政府がその問題を重視しているかの証拠だと、彼は答えた。さらに、汚職摘発で大勢が職を失っていることも、ゼレンスキー氏は指摘した。
ロシアがウクライナ全面侵攻を開始してから2年半だが、その間のイギリス首相はサー・キア・スターマーで実に4人目だ。しかし、またしても新しいイギリス首相とやりとりすることになった事態について、ゼレンスキー氏は前向きだった。
イギリスは国内政治がどれだけ混乱しても、常に一貫してぶれることなく自分を支えてくれたからだという。
スターマー新首相は1週間前の10日、首相として初の外国訪問で米ワシントンを訪れ、北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に出席した。その場でジョー・バイデン米大統領は、ゼレンスキー大統領がすぐ隣にいる状態で、よりによってロシアのウラジーミル・プーチン大統領と名前を言い間違えた。
私はその時、その場のすぐ先の廊下で、スターマー首相の記者会見が始まるのを待っていた。会見では、誰もがあぜんとしたバイデン大統領の言い間違いについて、記者の質問が集中した。スターマー首相はゼレンスキー大統領と同じように、ありがちなことだと、受け流そうとしていた。
しかし今回のインタビューでゼレンスキー氏は、ドナルド・トランプ前米大統領がウクライナの今後について発言してきた内容については、受け流そうとはしなかった。もっとはっきりと自分の見解を口にした。しかも英語で。
それと同時にゼレンスキー氏は、自分の思う限り、ウクライナの全領土返還は、戦闘終結の前提条件には必ずしもならないと認めた。
また、「すべての領土を武力で取り戻すという意味ではない」とも言った。こういう発言がどういう反応を呼ぶのか、今後を注目したい。
ウクライナでは今も激しい戦争が続く。何万人もの命が失われ、何百万人もの人が家を失い、数十億ポンドが費やされてきた。
「今こそ自由と民主主義のために立ち上がる必要があるし、その場所はウクライナだ」。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長はこれに先立ち、私にこう言った。
これは、モスクワやワシントン、そしてそれ以外の場所の人たちへのメッセージだ。そしてウォロディミル・ゼレンスキー氏は、この戦争に勝つため皆さんの支持が必要なのだと、訴え続けている。