2024年7月22日(月)

BBC News

2024年7月22日

アンソニー・ザーカー北米特派員

ジョー・バイデン大統領が、11月の大統領選挙を一変させた。民主党の大統領候補であり続けると何週間も激しく主張してきたが、ついに圧力に屈し、選挙戦から撤退した

これは、カマラ・ハリス副大統領にとって、民主党にとって、ひいては共和党の大統領候補のドナルド・トランプ前大統領にとって、どんな意味があるのか。

ハリス氏はリスクだが、多くの民主党員が望むリスク

ハリス氏が民主党の大統領候補になる見込みが、バイデン氏が支持を表明したことで、一気に大きくなった。

バイデン氏は、ハリス氏を全面的に支持すると表明した。4年前にハリス氏を副大統領に選んだ決断は、これまでの自らの決断の中で最高のものだと述べた。

これに対してハリス氏は、バイデン氏の支持を光栄に思うとし、党の候補者指名を勝ち取るために全力を尽くすと応じた。

民主党は全国大会まで1カ月もない。そうしたなか、不透明な状況が続くのを避けようと、民主党員のほとんどが大統領に従い、ハリス氏の支持に回る可能性がある。

実際にそうするだけの、現実的かつ政治的な理由がある。

ハリス氏は憲法上、大統領権限の継承順位1位の立場にある。黒人女性初の大統領候補を見送ることは、民主党にとって大きなマイナスとなり得る。もともと副大統領候補だったハリス氏なら、バイデン氏の選挙運動が集めた約1億ドルの資金をすぐに利用できる。

しかし、リスクもある。世論調査では、ハリス氏の支持率はバイデン氏と同じくらい低い。また、トランプ前大統領と直接比べた調査でも、バイデン氏とほぼ同じような結果だ。

ハリス氏が副大統領として時に、厳しい思いをしてきたこともある。バイデン政権が発足して早々、ハリス氏はアメリカとメキシコ国境の移民危機の根本原因に対処するよう指示された。

これはかなり難しい課題なだけに、ハリス氏はいくつかの失策や失言によって批判にさらされた。人工妊娠中絶の権利に関しても政権の窓口役を務め、こちらではうまく対応したが、早い時点での悪い印象は拭えていない。

さらに、おそらく最も重要なこととして、ハリス氏は過去にすでに大統領選に挑戦している。2020年大統領選で民主党の候補指名を勝ち取ろうとしたが、散々な結果に終わった。

ハリス氏は序盤で急浮上したが、メディアのインタビューにうまく対応できなかったり、示すビジョンが不明確だったり、選挙運動の運営がまずかったりしたため、最初の予備選の前に脱落したのだった。

ハリス氏という選択は民主党にとってリスクだが、現時点で安全な選択肢は何もない。そして、今回の大統領選で負けることの影響はこれ以上ないほど大きい。

民主党大会が混乱し、注目される可能性

政治大会はこの半世紀で退屈なものに様変わりした。テレビ向けに1分ごとに綿密な台本が準備され、数日間にわたる大統領候補のコマーシャルと化している。

先週の共和党大会が実際にそうだった。トランプ前大統領の指名受諾演説はあまりに長く、時にとりとめがなかった。

だが、来月シカゴで開催される民主党大会は、かなり違ったものになりそうだ。党とバイデン陣営がどのような台本を準備していたにせよ、それは無駄になった。仮に党がハリス氏の支持に回ったとしても、大会会場における事態の展開を計画し、コントロールするのは難しいだろう。

もしハリス氏が党内をまとめられなければ、党大会は政治的に何でもありの状態となる可能性がある。そうなれば、さまざまな候補者がカメラの前と密室で指名を争うことになる。

それは、米国民がかつて目撃したことのない、予測不能で人々の関心を引きつける、生中継の政治劇になるかもしれない。

共和党が掲げた「強い人VS弱い人」の構図が消滅

今年の共和党大会は慎重に事前調整されていた。党の最も人気のあるテーマを押し出し、批判をバイデン大統領に集中させた。

しかし結局のところ、共和党は標的を間違えた。

バイデン氏が選挙戦から撤退するというニュースが流れたことで、トランプ前大統領が進めてきた共和党の計画は根底から覆されたのだ。

共和党は1週間かけて、入念に台本を書いた大会を開き、民主党の対立相手の弱点に焦点を当てた。

元プロレスラーのハルク・ホーガン氏や、米総合格闘技団体アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップのダナ・ホワイト代表を登壇させ、ロックバンドのキッド・ロックに演奏させた。その後、共和党のトランプ候補を登場させ、同候補の力強さと活力を強調した。

バイデン氏の弱々しさと対比させて、若い男性有権者を同氏側から引き離そうという狙いは明白だった。

しかし、今後どのようなシナリオになっても、民主党の大統領候補はバイデン氏よりはるかに若い人物になる。

「頑強な人VS弱々しい人」という構図の戦略は、ハリス氏や、他の候補として名前が挙がっている民主党の若手知事らに対しては、バイデン氏相手のようなパンチ力はない。

もしハリス氏が党候補になれば、共和党はハリス氏を現政権の失敗と結びつけようとするだろう。共和党は何カ月も前から、ハリス氏を「国境の皇帝」と呼んでいる。

元検察官のハリス氏は、決して党の進歩派ではない。それでも、これまで共和党の論調から察するに、共和党が彼女を「急進左派」呼ばわりする可能性もあり得る。

後継候補が誰になろうと共和党は、年齢に伴うバイデン氏の弱点を民主党が隠してきた、民主党はそれによって国を危険にさらしたと非難するはずだ。

大統領選の投票日まで4カ月を切ったいま、誰もが先が見えない状態で走っている。

(英語記事 What Biden quitting means for Harris, the Democrats and Trump

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c728jkp205mo


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