2024年8月6日(火)

BBC News

2024年8月6日

マーク・イーストン内政担当編集長

2日の夜、私は誇り高いサンダーランドの街が犯罪と暴力の波に飲み込まれるのを見ていた。

極右活動家たちは、これまでにサウスポートやハートリープール、そしてロンドンでしてきたように、女の子3人が殺された事件に抗議すると主張しながら、平和を維持しようとする警察を攻撃した。警察署の隣にある相談センターに放火し、モスク(イスラム教の礼拝所)に石を投げ、店舗で略奪行為に走った。

しかし、覆面姿のならず者たちが警官隊に物を投げている側では、イングランド代表の上着を着た家族たちがそれに声援を送っていた。赤ちゃんをベビーカーに乗せた母親たちや父親たち、そしてイングランドを表す「聖ジョージの十字」の旗を肩にかけた小さな子供たちが、行進に参加するのを私は目撃した。

警察に石を投げる息子に、けがをしないように気をつけてと注意する女性もいた。

今のこの事態は、イギリスが沸騰寸前で、地域社会との関係が瀬戸際にある証拠なのだと、新政党「リフォームUK」のナイジェル・ファラージ党首はそう言う。

果たしてファラージ氏は正しいのだろうか。モスクが守りを固め、警察が最悪の事態に備え、地域社会の緊張が深まる中、イギリスは人種間抗争の夏を迎えることになるのだろうか。

それとも、この国は破局寸前だという主張は、統計データと食い違っているのだろうか。統計は、イギリスは一昔前と比べれば犯罪が少なく、社会的に寛容な国だと語っているのだ。

イングランド北西部サウスポートでの殺傷事件の後、極右の過激派はうそと偽情報を拡散した。これは、極右が多用する戦術の一例だった。サウスポートについて彼らは、犯人は小型ボートでイギリスにやってきたイスラム教徒の亡命希望者だという、虚偽の主張をことさらに展開した。

このほか具体性を欠く一般論として、移民の人数と暴力犯罪には関連があるかのように主張する偽情報が広められたほか、外国人、特にイスラム教徒が子どもたちにとって特に脅威だという誤った主張が繰り広げられた。また、自分はこの国の先住者だと自認する自分たちを、警察や政治家が守っていないという批判も続いた。

極右活動家らはさらに、警察の取り締まり活動が「二重基準」だと批判した。これはつまり、同じ抗議行動でも民族的マイノリティーによる抗議には警察が比較的寛大だという主張で、これもソーシャルメディア上で拡散している。

極右団体「イギリス防衛連盟(EDL」)の元リーダー、トミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)元受刑者は、「いったいどれほどのことが起きれば、この件について行動に出るほど、お前たちは怒るんだ」と問いかけた。

生活費や住宅費の高騰、質の低い公共サービスなど、日常生活でさまざまな苦労を重ねている人たちにとって、自分の苦しみを誰かのせいにできるのなら、その話には説得力が生まれる。

一連の暴動は、ただでさえ経済的に苦しんでいる地域社会に傷跡を残すことになる。しかし、暴動の翌日に同じ場所訪れると、まったく違ったイギリスの姿を目にすることができる。

イングランド北東部ハートリープールでは、7月31日夜に騒乱が起きた。後日、標的となった通りにあるサラーム・コミュニティー・センターへ私は向かった。コミュニティー・センターはすでに、ボランティアによる清掃活動の本部になっていた。

このコミュニティー・センターは、生活苦にあえぐ人々に定期的に食べ物の小包やその他の物資を届けている。この町で人種問題が火種になっているなど、馬鹿げた話だと、様々な出自の人が異口同音に繰り返した。住民たちは、あらゆる背景を持つ人々が互いに気を配り合う、親密なコミュニティーについて話してくれた。

そうした意見を証明するかのように、若い女性たちが警察署にチョコレートや贈り物を届けに来た。女性たちは、暴力事件に巻き込まれた世帯に配るための食べ物や飲み物の詰め合わせを持っていた。

地元の食肉店の店長は、暴徒が店の窓ガラスを破壊しようとした時に店にとどまり、肉用のナイフや包丁が悪人の手に渡るのを防いだことで、ハートリープールの英雄となった。

騒ぎの最中に路上で殴られた亡命希望者は翌日、この貧困地区を構成するさまざまなコミュニティーの人々に握手を求められたという。

この地域をパトロールして回る警察官は、担当地域の人々を「とても親密な関係」なのだと評した。「ばか者も何人かはいるが、この辺りの人間はみんな知っている。騒ぎの最中に路上に出ていた大人のほとんどは、ハートリープールの人間ではなかった」。

統計から分かること

この町や、最近の騒乱の影響を受けた他の町に、何の緊張感もないと言えばそれは間違いになる。極右のレトリックが効果的なのは、それが実際にある不満や不快感を巧みに突くからだ。

ハートリープールでは昨年、亡命希望者のアハメド・アリッド受刑者が年金受給者を刺殺した。この事件で町の人種関係は厳しく試されることになった。パレスチナ自治区ガザ地区での出来事が動機だったと語ったアリッド受刑者は、今年5月に終身刑の有罪判決を受けた(少なくとも44年は釈放されない)。

もちろん、このような比較的単独の事件だけでなく、医療や学校教育がすでに逼迫(ひっぱく)している地域社会へ移民が大量に流入すれば、どういう影響が出るのかについて、正当な懸念もある。また、地域社会の結束にどう影響するのかも問われている。

その証拠に、現在の合法的移民と不法移民の双方について、国民が大きな懸念を抱いていることは世論調査が示している。調査会社イプソスが2月に実施した世論調査によると、回答者の52%が今の移民の規模は大きすぎると考えている。2年前にそう答えた人は、42%に過ぎなかった。

一方で、移民の影響については概して否定的な意見より肯定的な意見の方が多いことが、同じ調査で明らかになっている(ただし、肯定と否定の差は、2022年以降に縮小している)。

長期的な態度については、信頼性の高い「欧州社会調査」によると、2022年には、イギリスのほとんどの人々が移民は経済と国の文化的生活にとって良いことだと考えていた。また大多数が、移民はイギリスをより住みやすい国にしたと答えている。

また「世界価値観調査」によると、移民が犯罪や失業の原因になるという意見に同意する割合が最も低い国はイギリスだった。隣人に移民がいたら嫌だと答えたイギリス人はわずか5%で、これもどこの国よりも低い割合だった。

今回、抗議デモが起きたミドルズブラのような地域の犯罪率は、イギリスの全国平均を大幅に上回っている。犯罪対策が後手後手に回っていることは再三報道されており、裁判の遅れも指摘されている。つまり、警察や裁判所の対応が十分だとは思われていないのだ。犯罪率が特に高い地域で特に、こうした感覚は顕著かもしれない。

一方で、国家統計局(ONS)で入手可能なデータは、一世代前と比べるとイギリスの犯罪件数が、ごくわずかだと示している。1995年にイングランドとウェールズで起きた犯罪の件数と現在の件数を比べると、5件につきわずか1件、つまり5対1なのだ。

反社会的な行動の件数も過去最低を記録している。イギリスで暴力の犠牲になる可能性は、歴史上のどの時代よりも、ほぼ確実に低い。この数字は、移民が増加する一方で暴力犯罪が減少していることを示している。

毎日のように報道される恐ろしい犯罪の数々を目の当たりにすれば、この国が前より無法地帯と化し、前より危険になっていると想像してしまうのも無理はない。しかし「イングランド・ウェールズ犯罪調査」によると、犯罪体験について住民に尋ねれば、実態は想像と真逆なのだ。

イングランド北東部サンダーランドでは、今回の騒乱を金曜日の夜のちょっとした見世物と思った人が大勢いたようだった。つまり、国は自分たちを無視しているという怒りを、表現する機会だととらえた人が大勢いたのだ。

その人たちにとっては、2日夜の騒ぎは突発的なものだったかもしれない。しかし、そうではない集団もいた。市内中心部でトラブルが始まる少し前、ユニオン・ジャックをまとった男たちでいっぱいの列車が、スコットランド・グラスゴーから到着した。駅の外では、イングランド南部なまりの集団が彼らを出迎えた。

私はその中に、現在は解散している極右EDLとつながりのある人間が何人かいることに気づいた。私が国内問題を取材して45年になる。人種的緊張が燃え上がるのを見るのは、決してこれが初めてではないのだ。

ただし以前と違うのは、ソーシャルメディア上で自己発信ができるようになったことだ。以前と違い、暴徒をあおろうとする者は好きなように発信できる。何が事実かそうでないかなど、特に気にすることもなく。

外国勢力が所有するサイトが偽情報を積極的に拡散しており、その証拠も得られている。そして、自称「愛国者」集団にかかわりのある過激派が、そうした偽情報を大量に吸い上げてはまき散らしているのだ。

地域社会で暴力が勃発するのを目の当たりにしている人々にとって、まぎれもなく非常に心配な事態が続いている。最悪の事態がすでに終わったのかもまだ分からない。

だが、私はハートリープールでの清掃活動を見てきたし、現在のイギリスがかつてないほど安全で寛容だと示す調査結果も読んできた。なので、組織化された極右フーリガンの動きが、今のイギリスの空気を代表するものだと思い込むのは間違いだ。私はそう感じている。

(英語記事 Protests reveal deep-rooted anger, but UK is not at boiling point

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c5yddvynp76o


新着記事

»もっと見る