ハリス氏出馬表明後、わずか1週間程度の間のこうした一連の動きは、トランプ氏と比較した「好感度(favorability)」調査結果に早くも表れている。
米ABCテレビが世論調査「Ipsos(イプソス)」と合同で実施した去る7月28日付けの調査結果によると、ハリス氏の「好感度」は1週間前の35%から43%に8%アップしたのに対し、トランプ氏に対する「好感度」は逆に40%から4%下落し36%となった。
対象を「無党派層」に限定した同調査でも、ハリス氏の「好感度」は28%から一挙に44%に急上昇したのに対し、トランプ氏は35%から27%にまで下落、その差は17%も開く結果となっている。
さらに8月6日、公共ラジオ放送「NPR」と公共テレビ放送「PBS」が調査機関「Marist」と実施した世論調査結果によると、トランプ候補の支持率が48%だったのに対し、ハリス候補が51%となり、ついに3%の差で優位に立った。ハリス氏はバイデン撤退の後を受けて立候補を表明した2週間前と比べ、支持を4%も増やしたことになる。
同調査を行った責任者は、トランプ氏との形勢が逆転した主な背景として「黒人層それに大学卒白人女性層の支持が20%から30%も増えたことが大きい」と説明している。
ハリス陣営では、こうした勢いに加え、8月6日には、中西部の白人層の間で幅広い人望があるティム・ワルツ・ミネソタ州知事が副大統領候補に決まったことを契機に、大統領選の勝敗のカギを握るペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの激戦州で、一段と攻勢を強めつつある。
6日、ワルツ副大統領候補とともに、激戦州の最初の遊説先であるペンシルベニア州フィラデルフィアの大演説会場に姿を見せたハリス候補は壇上で「農家の出身で公立学校教師、フットボール・コーチ、陸軍州兵卒、連邦議員の経歴を持つ中西部を代表するベテラン州知事」として最大級の賛辞で知事を紹介、1万2000人の支援者たちから万雷の拍手と歓声を浴びた。
突破口に欠けるトランプ
これに対し、トランプ共和党陣営は、ハリス氏が民主党候補として登場して以来、もっぱら対応に追われており、これまでのところ、反撃のための決定打を欠いたままだ。ハリス候補に対する小手先の個人的中傷・非難発言を繰り返すのみで、いまだに共和党寄りの有権者を納得させるだけの政策論争を仕掛けるには至っていない。
ハリス氏が義務教育の質的改善、女性の権利拡大などの取り組むべき課題にたびたび言及しているのとは対照的に、トランプ氏は「ウクライナ戦争、中東ガザ紛争は自分が直ちに終わらせる」といった荒唐無稽な発言以外は、過去の栄光を語るのみで、政権奪取後のビジョンについてはほとんど何も言及していない。
それどころか、トランプ氏は、黒人としてのハリス氏の生い立ちに疑問を投げかける発言で、黒人層の反発を買い、バンス副大統領候補も、出産経験のないハリス氏を「子なしの猫可愛がり女性」と評した過去の発言が暴露され、白人女性たちの批判を浴びるなど、このところ失点続きだ。
トランプ陣営によるハリス候補に対する反撃態勢が一貫性を欠いている点については、つい最近まで、選挙戦略そのものが「バイデン民主党候補との戦い」を前提に進められてきた点が挙げられている。
政治メディア「The Hill」の報道によると、同党の有力上院議員が7月下旬の共和党大会前に、副大統領候補の人選について、トランプ氏と電話で意見交換した際、バイデン氏が8月19日から始まる民主党大会を待たず撤退表明する可能性があるとして、もし、ハリス副大統領が代わって民主党候補に指名された場合の対応策を早急に検討するよう助言した。
しかし、トランプ氏は「バイデンがTV討論会で大失態を演じて以来、民主党が大混乱に陥ってはいるが、それでもバイデンは最後まで降りないだろう」との見通しを述べた上、これまで進めてきた選挙戦略への自信を表明した。
そして、副大統領候補については、トランプ氏に絶対忠誠を尽くし、同じ超保守思想を持つJ.D. バンス上院議員を抜擢する考えも伝えた。