第一には当然ながら、欧州製として追加関税などの制約に悩まされずに済む。第二には、いわゆる中国の「過剰生産問題」への、EUからの批判を和らげる可能性がある。そして第三には、個別のEU加盟国に巨額投資をちらつかせることで、安全保障面のみならず経済面でも対中強硬姿勢に転じ始めたEUに、内部で利害関係を複雑化させ、懐柔や牽制の手段として使える。
まさにメローニ政権は、この中国の思惑を捉え、EU内でも「抜け駆け」することで、露骨にその誘致を狙ってきたのである。
グローバルな力学変化の中で
もっともメローニ政権の姿勢は、温度差はあってもEU加盟の各国には他人事ではない。なぜならEU側には、米国における大統領選挙後の新政権誕生を見据えた、対米関係変調によるグローバルな力学変化への備えが課題となっているからである。
EUの対中姿勢の変化は、21年以降のバイデン政権下での米国・EU間の協調に加え、22年のロシアによるウクライナ侵攻と中露の蜜月関係強化を背景に加速した。しかし、仮に米国でトランプ政権が誕生すれば、EUとの協調に亀裂が生じる一方、米中関係も予期せぬ変動が発生する可能性がある。このためEUには中国との間で、再び協力余地が生じることも否定できない。
本来、長年にわたるEUの対中関与は経済利益に基づいており、加えて地政的位置や域内多様性から、EU全体としても加盟各国としても対中姿勢には温度差があり、米国と完全に一致するものではありえない。こうした中で、この数年間におけるEUの対中関係見直しとは、上記のグローバルな力学変化の中で、経済利益が根本的な安全保障基盤に悪影響をおよぼし、その便益の分岐点を下回ることの結果として推進されてきた。
一方で中国は、EUの足元を冷徹に観察しながら、米国による世界規模の包囲網を切り崩すため、EUにおけるどの駒を、どの産業分野とタイミングで、どのように利用すべきかを、見極めようとしている。
このように考えると、メローニ政権が見せている動きと、これに応じる中国の思惑には、巧みな利害の一致があることがわかる。もっとも中国は、イタリアの要望に応える素振りは見せつつも即座に応じる様子はなく、イタリアの今後の対応を瀬踏みし、あるいはその「誠意」を試す動きに出るであろう。
もっともイタリアは、右派ポピュリスト政権であっても、G7メンバーであると同時にEU内に一定以上の影響力を持つ民主国家であり、ハンガリーやセルビアのように権威主義的体制と露骨な親和性を持つ親中諸国とは、動かし方が異なる。この結果として、将来における両国の協力関係には、自ずと限界が生じるであろうことも容易に予想できる。
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