同時にイタリアは、低迷する国内経済を振興するため、中国からの投資を強く期待している。これに対して中国側は、イタリアをEUやG7を外交と経済の両面で切り崩す足掛かりとして利用しうることを意識しており、イタリアの期待に応える素振りを見せている。
こうした両国の思惑が合致することもあって、今回の訪中では両国間の産業協力覚書である「全面的戦略パートナーシップ強化の行動計画(2024~27)」が調印された。そこでは今後の3年間において、貿易投資、EV、再生可能エネルギー、造船、宇宙航空、AI、電子商取引などの分野で、積極的な産業協力を進めることが謳われている。
総じて言えば、昨年の「一帯一路」の脱退とは、メローニ政権によるしたたかな駆け引きの一端であったのではなかろうか。すなわち、ドラギ前政権の置き土産であった「一帯一路」に難癖をつけつつ、これを脱退する行動をとることによって、米国やEUが右派ポピュリストであるメローニ政権に抱いていた外交面での警戒心を逸らしたと同時に、中国に大きく揺さぶりをかけつつ水面下では秋波を送る。
これによって、「一帯一路」の枠組みに加入していた時よりも、さらに大きな利益を引き出そうとしているように見える。まさに大樹を揺すって、より多くの実を得ようとする、きわめて功利的な実利外交である。
EVをめぐる思惑
イタリアにとって、もっとも中国から引き出したい成果とは、中国EVメーカーによるイタリア現地での完成車工場建設に向けた投資である。実のところイタリア政府は、昨年の「一帯一路」脱退と前後して、比亜迪(BYD)、吉利汽車、東風汽車などの中国自動車産業の大手企業に対し、自国への投資を強く働きかけてきた。
イタリアでは近年、国内での自動車生産が低迷しており、追い打ちをかけるように最大手メーカーのステランティス(旧フィアットと仏PSAの統合会社)は、生産拠点をイタリア国内から新興国にシフトさせる戦略である。このためイタリア政府は自動車産業の雇用確保のため、中国EVメーカーの誘致を目論んできた。
中国製EVをめぐっては、すでにEUと中国の間で経済摩擦の大きな火種となっている。中国製EVの輸出先としてEUは全体の4割を占めており、その中でもイタリアは23年に30万台ものEVを輸入している。一方で、13年に1040億ユーロであったEUの対中貿易赤字は、23年には3970億ユーロに急膨張している。
このためEU側は、対中貿易赤字の是正と域内産業の保護のため、中国製EVを標的にしている。そして欧州委員会は23年10月に、中国製EVへの政府補助金の調査を開始し、24年7月には中国製EVに対する17.4%~37.6%の追加関税措置が導入されるなど、締め付けが強まっていた。
こうした中で中国は、自国EV産業による欧州現地生産を進めざるをえなくなりつつある。これは中国にも3つのメリットがある。