東南アジアの論理
ここまで日本と中国の視点から東南アジアのEV普及を見てきた。最後に東南アジア側の論理も考えておきたい。中国がどう攻めるのか、日本がどう守るのかといった筋書きで語られることが多いが、東南アジアの国々、現地企業には独自の戦略とソロバン勘定があることも抑えておくべきだろう。
現地のEV振興策はまるで日本車イジメに見えるが、脱炭素計画やグリーン産業をいかに誘致し振興させるかという地元の考えは無視できない。日本自動車メーカーが現地に雇用と技術をもたらしたように、中国EVメーカーも技術移転や現地のサプライチェーン育成といったメリットをもたらす可能性は高い。そもそも、EVの前から盛んだった中国IT企業の進出は東南アジア各国のデジタルサービスを大きく向上させるもので、そこで得たノウハウや技術は現地企業の成長にもつながっている。
つまり、中国EVメーカーの東南アジア進出は受け入れる現地の側が仕掛けているという側面もある。現地工場建設を条件にEVの輸入関税を引き下げたタイが好例だ。
新興国の経済成長、技術力向上には外資の力が不可欠である。その選択として中国という新たな要素が加わったことはウェルカムだろう。
この選択肢は二者択一ではない。政治的に米国に近い、あるいは中国に近いという国際関係の力関係はあるものの、経済的にはなにか一つを選んで他の選択肢を放棄するのではなく、自国の発展のために複数の選択のベストミックスを探るという手法が採られるわけだ。日本が考えるべきは、日本”陣営“に引き入れることではなく、現地の人々が選ぶ選択肢の中にいかに多くの日本カードを入れるかであろう。