前出の岡元さんは「介護保険制度が創設された直後の2001年時点では、親族が主たる介護者である割合は約7割だったが、直近の22年には約5割に低下している。これは、介護を家族だけではなく社会全体で『担う』ことが定着してきたと見ることもできる」と話す。
それでも、介護経験者の大島さんは、「『家族介護が善』とする価値観はいまだに残る」と言う。「友人から『自分は家でちゃんと介護したよ』と言われて憤りを感じた。プロに頼って要介護者と距離を置くことが良い場合もある。家族によって、ベストな関わり方は違うのに……」(同)。
労働者の働き方を守る育児・介護休業法への誤解が、介護離職につながる一因となる場合もある。この法律では、「対象家族1人につき年5日の介護休暇」「3回の分割まで可能な93日の介護休業」、所定外労働や時間外労働、深夜業の制限などが設けられている。
労働政策研究・研修機構副統括研究員の池田心豪さんは、解説する。
「もともとは男女の雇用機会を均等にするための法律で、育児・介護休業法がつくられた当時は脳血管疾患にともなう介護の態勢づくりを想定して、介護休業の取得は3カ月間の1回とされていた。しかし、時代の変化とともに、制度の想定や意味合いを見直して法改正をしてきた」
例えば、介護保険サービスを利用する場合、3カ月も休む必要はなくなったが、介護が長期化する場合など、態勢を見直すために3回に分けて取得できるようになった。だが、法改正や使用方法を知らず、介護に専念するために長期間の休業を取り、復職が難しくなって介護離職する人もいる。
前出の和氣さんは言う。
「親の病気などで突然自分が介護者になる人もいるが、徐々に進行する認知症により、少しずつ自分の生活に介護が組み込まれる人も多い。どちらの場合も情報を持っていないと、選択肢がわからなくなってしまう。両立支援制度の存在を知っていて、的確に使用できるかは、介護者にとって大きな選択肢となる」
進む企業の介護支援
企業と従業員の歩み寄りを
従業員が介護に関する知識がないまま介護離職につながることは、企業にとって大きな損失となる。従業員の選択肢を広げるため、企業も対策を進めている。
東京海上日動では、2013年より仕事と介護の両立支援に本格的に取り組み始め、その後、介護を専門とするグループ会社・東京海上日動ベターライフサービスとも共同して支援を広げてきた。現在では年1回、約600人の従業員が参加する介護セミナーで基本となる両立支援制度などを周知するほか、介護についての個別相談会も実施している。
同社人事企画部・企画組織グループの三好里咲さんは「昨年度は個別相談会の枠が不足したことから、年間55枠から年間60枠まで増やした。セミナー後や実家に帰省する際に介護への関心を抱いて個別相談会を予約する従業員が多く、そのニーズが高いことがわかる。また、オンライン上では『介護雑談部屋』を開設し、「介護に関する情報収集や理解促進」を目的に、介護の悩みや愚痴などを雑談する東京海上グループ限定のコミュニティーを設けている。介護専門職のプロから具体的なアドバイスももらえるため好評だ」と話す。
大企業のオフィスワーク部門に限った話ではない。映像編集の「現場」を持つ白川プロ(東京都渋谷区)では、代表取締役社長の白川亜弥さんが介護離職のニュースを見たことをきっかけに、15年から仕事と介護の両立支援とその周知強化を進める。