白川さんは「まずは私たち経営者側が『介護の両立支援を充実させます』と宣言して、従業員の中に『介護の相談をしてもいい』という空気を醸成していった」と話す。
同社も東京海上日動と同様に、年1回の介護セミナーを開催して両立支援制度の周知を図っている。また、介護保険制度の対象となる40歳を迎えた従業員には、両立支援制度などについて書かれた手作りのパンフレットを配布する。同社人事部副部長で介護相談窓口を担当する風張有紀恵さんは、「どのような相談でも、キャリアに影響がないことは必ず伝えている。まずは従業員の悩みを知ることが大切だ」と語る。
現場の仕事を抱える映像編集の世界では、深夜残業や不規則なシフトなど、介護との両立は難しいのではないかと懸念を持つ読者がいるかもしれない。白川さんは「映像編集は専門職で、全員がスキルを持っているため、休暇を取る従業員の仕事の穴をカバーしやすい。両立支援制度の周知や相談しやすい環境整備を行うことも大切だが、実務的には〝その人だけ〟しかできないような仕事を減らしていくことが重要になってくるのではないか」と話した。
仕事の属人化をなくし
働きやすい職場づくりを
仕事の属人化をなくすことについて、前出の池田さんは「仕事は、①自分にしかできないこと、②人に任せられること、③する必要がないことの3種類に分けることができる。①は可能な限り休まない、②は他の従業員にカバーしてもらう、③は行わないというメリハリをつける。これにより、介護だけでなく育児や自己啓発など他の事情でも休みやすくなり、会社全体の働きやすさにもつながるのではないか」と話す。
一方で、従業員側は「介護がもたらすキャリアへの影響」を考え、企業側は「介護はプライベートな事情」という〝本音〟があるのも事実だろう。しかし、その認識こそ、介護離職の要因の一つにもなっている。「従業員が介護を申告しない『隠れ介護』も問題だ」と池田さんは話す。「今はプライベートに踏み込まないことが良しとされているが、従業員が働けなくなることは企業業績に直結する労働問題だ。従業員がリスクの共有を可能にするためには、普段の相談環境や、個人を尊重するような職場の空気づくりも肝になる」(同)。
大和総研政策調査部主任研究員の石橋未来さんはこのように話す。
「令和6年5月に改正された育児・介護休業法では、早い段階での従業員への両立支援制度などに関する情報提供が事業主に義務化される。男性の育休取得率が3割を超えるなど仕事と育児の両立支援制度の活用が広がってきたように、仕事と介護を両立できる環境整備も急務だろう」
介護の事情は人によってさまざまであり、実際に直面しないとその実態はわからない。仕事と介護の両立支援の周知、また、相談できる職場づくりをすることは、結果的に誰もが働きやすい職場環境の構築につながっていくのではないか。家族や本人だけではなく、企業として、社会として、この問題に真剣に向き合わなければならない。