2024年4月26日(金)

World Energy Watch

2014年1月9日

 この米国の立ち直りの理由の一つは、製造業の米国回帰だ。例えば、アップルなどが米国での製造開始を発表している。回帰の理由は、中国での人件費上昇、輸送費の上昇により市場の近くでの製造が有利になっていることなどがあげられているが、シェール革命により米国のエネルギーコストが他国との比較で低位安定していることも見逃すことはできない。

 いま米国のシェールガスは天然ガス生産量の40%を超えるまでになっている。米国はロシアを抜き世界最大の天然ガス生産国になったが、その生産量は、シェールガスによりさらに増加している。米国の天然ガス価格は12年の底からは需要増もあり、上昇しているが、欧州、アジアとの比較では依然3分の1から4分の1のレベルだ。

 この天然ガス価格下落の恩恵は電力業界にも及んでいる。かつて50%あった石炭による発電シェアは40%を割るまで落ち込んでいる。その落ち込みを埋めたのは天然ガスだ。しかも、石炭が安い産炭地の近くでの石炭火力は維持され、石炭価格が高かった地区の発電所が天然ガスに切り替わっている。おかげで、米国の電気料金はシェールガス生産開始以降低位安定している。産業用の電気料金は全米平均では1kWh当たり6.8セントだ。ドイツの18.8ユーロセントと比較すると、3分の1以下だ。

もし米国のエネルギー価格がドイツ並みだったなら…

 安価なエネルギー価格・電気料金は米国産業界に大きなメリットを与えている。米国の製造業が使用している電力量は約8500億kWh。日本の全電力使用量に近い量だ。平均的な電気料金6.8セントが支払われているとすると、産業界の負担額は約6兆円だ。この電気料金がドイツ並みであれば、産業界の負担額は約20兆円になる。

 天然ガスも燃料及び原料として製造業で使用されている。その量は約6兆立方フィートだ。13年9月の産業用の天然ガス価格1000立方フィート当たり4.39ドルを基に計算すると、負担額は約約2兆6000億円になる。ドイツの産業用天然ガス価格は1000立方フィート当たり約14ドルだ。ドイツの価格であれば、負担額は8兆円以上になる。

 米国のエネルギー価格がドイツ並みであれば、米国の製造業のエネルギーコストの負担額の増加は約20兆円になる。日本の製造業の12年度の経常利益額は法人企業統計によると15兆7000億円だ。米国の製造業が他先進国のエネルギーコストとの比較で享受しているメリットの大きさは、日本の製造業の経常利益額に匹敵する。

 このシェールガスによる恩恵は当分続くだろう。シェールガスを欧州、アジアに液化天然ガスとして輸出するようになっても、米国製造業の競争力に影響があるほどの安値で売ることもないだろう。低エネルギーコストは、米国製造業の復活をさらに後押しする。


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