さらに、シェールガスの掘削に用いられる水圧爆砕法では大量の水が必要とされる。シェールガスが賦存する場所の多くは水が不足していると言われており、水をどこから得るのか、どのように管理するか問題となる。環境問題への配慮も必要だ。
生産ができたとしても、大きな問題がある。輸送のためのパイプライン網がないのだ。生産地は需要地から離れているために輸送のためのパイプラインが必要だ。この敷設が必要になる。11年末の中国のパイプライン網は43,452キロメートルだ。米国の49万キロメートルの10分の1以下しかない。ペトロチャイナは、既に四川省でのパイプライン延長に乗り出しているが、生産が本格化すれば輸送能力が不足する。
今後生産に関する新たな技術開発、例えば、深い場所での水平掘削技術の開発、あるいは水を大量に使用しない生産技術の開発があるかもしれないので、中国のシェールガス生産のコストが安くなる可能性がないわけではない。欧州でも英国、ポーランドなどでは生産の準備が進んでおり、数年後には生産が開始されるだろう。しかし、地質条件がやはり米国との比較では劣るとされること、また欧州2位の埋蔵量を持ちながら生産を禁止しているフランスのような国もあることから、米国ほどの量、コストを欧州で達成することは無理と見られている。
結局、中国も欧州も米国ほどのコストでシェールガスを採掘することは困難と予想され、エネルギー価格については、当面米国優位が続くことになる。米国の競争力はエネルギーコストにより大きく強化され、米国の経済覇権はさらに長期間続くことになるだろう。
日本は何をすべきか
日本が米国の経済覇権を脅かす時代はもう来ないだろう。しかし、米欧中と競争し、製造業を維持発展しなければ、日本経済は地盤沈下する。経済成長は不要と主張する人もいるが、経済が成長し給与が増えなければ、残念ながら多くの人は幸せを感じることはできない。経済成長が不要というのは持てる人の言い分のように思えてしまう。
1人当たりの作りだす製造業の付加価値額は、殆どのサービス産業を上回っている。製造業が衰退し、サービス産業に雇用が移れば、生産人口が増えない日本では、GDPも給与も下がっていくことになる。米国のような製造業回帰までは望めないとしても、1億2700万人の市場の近くで製造を維持することは必要だ。そのためには、エネルギー価格の上昇を抑える必要がある。米国に続き、中国も、欧州もシェールガスの生産を開始すれば、米国ほどではないにせよ、中国、欧州共にエネルギー価格を下げ、安全保障を強化することになる。
日本の選択肢は限られているが、安全対策が実施された原子力発電所を稼働させなければ、その選択肢はますます失われる。エネルギー・電力価格と産業の維持は我々の生活と給与に直接結びついている。
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