圧倒的な興行収入
それを作り出した〝仕掛け〟
スタジオジブリは当初、鈴木が所属していた徳間書店の子会社として設立された。05年まで関係は続き、『もののけ姫』の企画段階では、ジブリは徳間書店の一番の稼ぎ頭となっていた。
「僕は好きな映画だけを作りたかったのに、徳間書店の代表として、銀行から金儲けを求められるようになりました。それに腹が立ったんですよ」
『もののけ姫』は圧巻の戦闘シーンが印象的だが、企画当初、宮﨑が作りたいと言っていたのは「毛虫」をテーマにした素朴な作品だったという。
「僕はへそ曲がりなんでね、『毛虫』と言われて逆をやりたくなっちゃった。しかも、お金儲けを要求されて腹が立ってるから、やっているうちに本気になっちゃって。実はそれが『もののけ現象』の根っこです」
自分の思いとは裏腹に金儲けを要求された鈴木の「怒り」の昇華によって、『もののけ姫』はそれまでのジブリ作品の10倍、日本映画歴代最高の興行収入となる193億円を達成した。
だが、宮﨑の次作『千と千尋の神隠し』は、そのさらに上を行き、平成最高となる304億円をたたき出すのである。
そのきっかけとなったのは、当時、博報堂でプロモーションを担当していた藤巻直哉だ。藤巻は後に『崖の上のポニョ』で主題歌も歌うことになるほど、鈴木とは昵懇の仲である。『千と千尋の神隠し』の完成後、鈴木は町で藤巻に偶然遭遇した。
「藤巻が『すごいですね、千と千尋。東宝は大喜びしていますよ。みんな言ってます』って言うから、『なんて言ってるの』って聞いたら、『もののけの半分くらいはいきますね』って。彼に悪気はなかったんだろうけど、もうカチンときてね。半分だと思ってるのかと。だから逆をいってやろうと、倍いこうってなったんです」
またしても「へそ曲がり」が鈴木を本気にさせた。どうしたか。(聞き手・羽鳥好之 構成・編集部(梶田美有))
※こちらの記事の全文は電子書籍「ジブリがヒットを重ねる理由 “猛獣使い”鈴木敏夫の着眼点」で見ることができます。