こうした危機的な状況下にありながらも、前述のようにいまだ北京市民の日常生活のなかからは水不足の危機を共有するような変化が感じられない。その事実が水資源保護に関わる専門家たちの焦燥感をさらに煽っている。
騙し騙しなんとか水を手当てしてきた当局だが、もはや「最後の砦」ともいうべき地下水にまでその問題は及んできている。
河川から地下水へ 広がる水質汚染
そのことを象徴していると考えられているのが、いま中国全土に広がる水質汚染の問題である。中国の深刻な水質汚染は、表面を流れる河川から土壌に広がり、ついには地下水の汚染にまで広がってきている。
(提供:Imaginechina/アフロ)
地下水汚染がにわかに注目を浴びたきっかけは、山東省の1つの“盗排“事件だった。盗排とは汚染水をこっそり捨てることだが、企業自らが汚染水を捨てるのではなく、それを有料で引き取る非合法の企業が請け負い、夜中にこっそり川に捨てるというシステムだ。汚染水を排出する企業が自らの手を汚さないためさらに良心のハードルが下がり、問題を助長している。
13年2月、山東省濰坊の企業が汚染水を地下深くに捨てているという告発を受けて当局が調査に入った。これは、川に流す“盗排”よりも、さらに手の込んだ犯行の始まりだとネットでも大きな話題になった。
こうした問題が積み重なり、13年10月、『時代週報』が伝えた記事によれば、中国農業科学院の研究者が09年に北京市平原区の322の観測地点で行った調査において、「比較的汚れている」及び「極めて汚れている」に分類された水源は実に41%にも及んだのである。
この結果は北京から少し範囲を広げて行った調査でも、当てはまる。
同じ時期、中国地質科学院水文環境地質環境研究所が公表した華北平原における地下水の汚染状況の調査結果では、いまだ汚染されていない地下水は全体のわずか55.87%でしかなく、44.13%の地下水はすでに何らかの汚染の影響があることも判明した。
中国では、もう何年も前から「いずれ飲み水がなくなる」という懸念が語られてきているが、公表されるデータのどれもがそのことを裏付けるような内容だった。