北大西洋条約機構(NATO)の新しい事務総長に1日、オランダのマルク・ルッテ前首相(57)が就任した。最初の記者会見ではロシアについて、ロシア政府が「無謀で無責任な」発言をしてはいるものの、核兵器の使用に至る差し迫った脅威はないとの見解を示した。
ルッテ氏は6月に次期事務総長に内定していた。
事務総長の任期は通常4年。だが、前任のイェンス・ストルテンベルグ氏は10年務めた。同氏はノルウェーの経済学者で元首相。
ルッテ氏はこの日の記者会見で、自らの任期における優先事項は三つあると説明。ウクライナ支援、NATOの集団的抑止力の強化、インド太平洋など他地域での関係構築――を挙げた。
ウクライナ支援を継続
昨今の軍事情勢をめぐっては、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が先月下旬、同国の軍事ドクトリン転換を検討していると述べた。ウクライナなど非核保有国が、核保有国の支援を受けて実行する攻撃について、「共同攻撃」とみなすというものだった。
ウクライナは西側諸国に対し、西側から供与を受ける長距離ミサイルをロシアの軍事拠点への攻撃に使うことを、承認するよう求めている。プーチン氏の発言は、これを踏まえたものとみられる。
この日の記者会見でルッテ氏は、ウクライナがそうした攻撃を実施する権利は支持するが、長距離ミサイルの使用を認めるかは各国の判断だと述べた。そして、NATO加盟国に対し、「ウクライナを支援すればするほど(戦争は)早く終わる」として、ウクライナへの兵器供与を続けるよう求めた。
ルッテ氏はまた、「ウクライナを支援するコストは、プーチンに思い通りにさせた場合のコストよりも、はるかに低い」と強調。ウクライナをNATO加盟国に近づけるというストルテンベルグ氏の取り組みを、引き継いでいく考えを表明した。
一方で、ウクライナの戦場ではロシアがゆっくりながらも着実に前進しているとし、状況は「困難」だと認めた。
ただ、ロシアの戦果は限られており、毎日1000人のロシア兵が死傷しているとの推定に言及しながら、ロシアは大きな犠牲を払っていると指摘した。
記者会見では、アメリカの前大統領で現大統領候補のドナルド・トランプ氏についての質問も出た。トランプ前大統領はNATOとの関係がよくなかった。
ルッテ氏はトランプ前大統領を、多くの同盟国に対して防衛費を増やすよう説得し、ロシアの脅威を強調したとして称賛。NATO加盟国は現在、トランプ政権が始まった2017年よりもはるかに高い支出レベルにあると指摘した。
ルッテ氏はまた、アメリカの副大統領でやはり大統領候補のカマラ・ハリス氏についても、「とても尊敬されている指導者」だとたたえた。そして、来月の大統領選挙で誰が勝利しようとも、協力していくと宣言した。
前任のストルテンベルグ氏と同様にルッテ氏も、NATO加盟国にいっそうの支出を求めていくと述べた。今夏まで首相を務めた出身国オランダについては、もっと早くGDPの2%を国防費に充てるという目標に到達すべきだったとした。
NATOはストルテンベルグ氏が事務総長を務めた10年間で、大きく変容した。2019年にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が「脳死状態」だと批判したが、現在ではスウェーデンとフィンランドも加盟する軍事同盟へと生まれ変わった。
ストルテンベルグ氏は1日、退任のあいさつで、この10年間は「重大」な時期だったと述べ、ルッテ氏の幸運を祈るとした。
(英語記事 No imminent nuclear threat from Russia, says new Nato chief)