2024年10月11日(金)

BBC News

2024年10月2日

11月5日のアメリカ大統領選に向けた副大統領候補同士の討論会が10月1日夜、ニューヨークで行われた。CBSニュース主催の討論会は、共和党候補のJ・D・ヴァンス上院議員がさまざまなテーマについて「カマラ・ハリス政権」の政策や不法移民がその原因だと非難する一方、民主党候補のティム・ウォルズ・ミネソタ州知事はドナルド・トランプ前大統領がアメリカに恐怖と混乱をもたらしていると非難した。副大統領候補の討論会は従来、それによって勝ち負けが決まるというよりも、大きな失点を出さないことが重視されており、今回もそういう結果だったと広く受け止められている。

大統領候補同士の9月の討論会と異なり、2人の副大統領候補は「あなたの言うことに一部同意です」と丁寧な態度をとるなど、相手を面と向かって罵倒する場面は終盤までなかった。しかし、選挙結果をヴァンス候補が承認するかと最終盤になって司会者が質問すると、両者は対立。ウォルズ氏が、「ドナルド・トランプは2020年大統領選で負けたのか」と面と向かって問いただすと、ヴァンス氏は「大事なのは未来だ」などと、質問に直接答えなかった。そのため、ウォルズ氏は「今のが決定的に最悪な、答えになっていない答えだ」として、「だからこそこの壇上に、(トランプ政権の副大統領だった)マイク・ペンスがいないんだ」と強調した。

90分間にわたった討論会は、CBSの司会者2人が候補たちの発言の真偽をファクトチェックしないという取り決めのもとで行われた。中東情勢、大型ハリケーン被害と気候変動、移民対策、経済政策、人工中絶や不妊治療など生殖に関する権利、銃による暴力、医療保険、選挙結果を受け入れるかどうか――などのテーマが取り上げられた。

中東情勢

司会者からの最初の質問は、イスラエルとその周辺で紛争が激化している中東情勢を踏まえて、「イスラエルがイランに対して先制抑止攻撃を行うことを支持するか」というものだった。

民主党のウォルズ氏は、イスラエルには自衛権があると強調。そのうえで、情勢不安定な現状で何より大事なのは安定した指導力だと述べ、複数のトランプ政権元幹部が前大統領は職務に不適切だと発言していることに触れた。

さらに、イランが核兵器保有に近づいているのは、トランプ前大統領がイランの核開発を管理する国際合意から一方的に離脱したからだと批判。また、危機の最中にトランプ候補は外交努力に取り組むよりも「ツイート」していると非難した。

これに対して共和党のヴァンス氏は、質問に答える前にまず自分の半生を自己紹介した。そのうえで、トランプ候補は大統領として「力を通じて平和」を実現したのだとして、トランプ政権の下では世界は今よりはるかに安全だったと述べた。

気候変動

アメリカ南東部に大型ハリケーン「へリーン」が甚大な被害をもたらしていることを踏まえて、次に司会者は気候変動について、「気候変動の影響を減らすため、トランプ政権はどのような責任を担うか」とヴァンス氏に質問した。これにヴァンス議員は、アメリカの製造業の力を維持することが重要で、「ハリス政権」はアメリカの製造拠点を温室効果ガスの大量排出国に移転することでアメリカ経済と温室効果ガスの排出量を悪化させてきたと答えた。

これに対してウォルズ知事は、トランプ候補が気候変動を「でまかせ」と呼んできたことを指摘。それに対して地元ミネソタ州の「農家は、気候変動が本物だと承知している」として、アメリカは今後、代替可能エネルギーの生産を拡大することで「未来のエネルギー超大国になれる」と述べた。

不法移民

司会者は続いて、トランプ候補が不法移民の「大規模な強制送還」を実施すると公約していることについて、「親が不法移民で、その子供がアメリカで生まれている場合、家族を引き裂くのか」とヴァンス氏に質問した。ヴァンス氏はこれに直接答えず、アメリカで依存症増加が問題になっている合成鎮痛剤フェンタニルが、「カマラ・ハリスが国境を全開にしたせい」で「大量に入ってきた」と述べた。さらにヴァンス氏は、次のトランプ政権では、不法移民がアメリカの労働者から仕事や住宅を奪えないようにするのだと繰り返し強調した。

不法移民の「大規模な強制送還」の実施について重ねて質問されると、議員は「犯罪歴のある者から開始する」と答えた。

ウォルズ氏は、ハリス氏がカリフォルニア州の司法長官として密入国あっせん組織を摘発したことに触れたほか、「みんなこの問題は解決したいんだ……少なくともほとんどの人は」として、連邦議会で超党派議員が取りまとめていた移民対策法案をトランプ候補が選挙戦を有利にするためにつぶしたのだと繰り返した。

ヴァンス議員の地元オハイオ州のスプリングフィールドでは、アメリカ政府から一時保護資格を得て合法的に滞在しているハイチ移民について、「住民のペットを食べている」という虚偽をトランプ候補が討論会などで広めたことから、市内の学校などに爆破予告が相次いだ。この問題について、ヴァンス氏が「国民の注目を集めるために、自分は物語を作ることもある」と発言していることから、ウォルズ氏はこれを非難。「スプリングフィールドで合法的に暮らしている多くの人々を中傷」するそうした発言には、結果と責任が伴うのだと批判した。

これに対してヴァンス氏は、民主党とマスコミが要点をわざと外して騒いでいると反論。「自分がオハイオ州スプリングフィールドで一番心配している人たちは、カマラ・ハリスの国境開放で生活を破壊されたアメリカ市民だ」と述べた。

ヴァンス氏は、ハリス氏の国境政策を非難する中で、「この国には今、不法移民が2000万から2500万人いる」と述べたが、情報の出典や時期は示さなかった。バイデン政権中に国境警備当局が記録した不法移民の数よりも、これははるかに多い。2021年1月以来、記録されたのは1000万件以上と高い水準になっている。国土安全保障省が今年発表した統計によると、2022年1月の時点でアメリカ国内に住む違法移民は1100万人だが、これは数十年の間に入国した人数という。

スプリングフィールドに住むハイチ移民は、合法的に滞在していると司会者が指摘すると、ヴァンス氏は「司会者はファクトチェックしない決まりだったはずだ」と反論。「まだまだ取り上げなくてはならないテーマがある」と司会がさえぎっても、ウォルズ氏と共に制度について発言を続けたため、事前の取り決めの通り、CBSは両候補のマイクを切った。

経済政策

司会者は続いて、両陣営の経済政策がアメリカの財政赤字拡大につながるというエコノミストの分析について質問した。

ウォルズ知事は、トランプ候補は富裕層への減税を拡大し、関税も引き上げるつもりで、それは中産階級に打撃を与えると強調した。

ヴァンス議員は、「中産階級の問題に取り組むそんなに素晴らしい計画をカマラ・ハリスが持っているなら、今すぐ実施すべきだ」と批判。ハリス氏が副大統領として国民を助ける施策を何も実施してこなかったという陣営の主張を、ここでも繰り返した。

「トランプ候補の経済政策を実施すれば、アメリカは景気後退に陥る」というエコノミスト分析については、「エコノミストは博士号を持っているが、まともな分別を持っていない」、「トランプ陣営の減税措置は、勤労世帯に利益をもたらす」と強調した。

これを受けてウォルズ氏は「メモにとっていたのだが」として、ヴァンス氏は「エコノミストも信用できない」し「(気候変動について)科学者も信用できない」と発言したと指摘。そのうえで、「エコノミストも科学者も安全保障の専門家も信用できないというなら、ドナルド・トランプは自分が何もかも知っていると思っているが(略)もし心臓手術が必要なら、ドナルド・トランプではなく」医療機関の医師たちを信じたほうがいいと有権者に促した。

発言訂正

司会者は続いて、指導者としての資質に言及し、ウォルズ氏が自分がかつて1989年6月の天安門事件の最中に香港にいたと発言したものの、同氏がアジアへ旅行したのは同年8月が最初だったと複数の報道機関に報道されていることについて質問した。

ウォルズ氏はそれに対してまず自分の経歴を語り、地元の有権者は自分が何者かよく知っていると述べたうえで、「自分は時々、その場の勢いで言い間違うこともある」と述べた。さらに司会者に質問されると、「あの夏あそこに着いて、それについて言い間違ってしまった。それだけだ」、「民主化要求抗議の時、私は香港と中国にいた。それを通じて、統治において何が必要かたくさんのことを学んだ」と結んだ。

司会者はさらにヴァンス氏に対して、2016年の時点でトランプ候補について「アメリカの指導者としてふさわしくない」、「アメリカのヒトラーになり得る」など述べていたことや、その後も大統領としての経済政策を批判したことについて質問した。これに対してヴァンス氏は、「自分はドナルド・トランプについて間違っていた。マスコミの虚偽報道を信じていたので。けれどもドナルド・トランプは、アメリカ国民のために結果を出した」と答えた。

生殖に関する権利

アメリカの選挙で今回も重大争点になっている妊娠の人工中絶権や不妊治療の権利に話が移ると、人工中絶の権利を全米で保障していた重要判例を連邦最高裁が覆したことについて、ウォルズ氏はトランプ候補がそれを自分の手柄にして自慢していると批判。テキサス州など中絶処置を違法にした州では出産に関連した女性の死亡が急増していることや、ジョージア州で合法的な中絶処置が得られなかったためノースカロライナ州へ移動後に敗血症で死亡したアンバー・ニコール・サーマンさんの事例をあげ、中絶の適切な処置を得ることは医療と基本的人権の問題だと主張。その権利が居住地によって左右されるなど、あってはならないと強調した。

ウォルズ氏は「我々は女性を信用するし、医者を信用する」と述べ、自分たちは「中絶賛成なのではなく、女性を支持し、教育を支持し、自由を支持する」のだとして、女性が自分の体について決める権利に政府は介入すべきではないと繰り返した。

そのうえで、中絶権を連邦法で全国的に保障する制度を復活させると強調した。

ウォルズ氏はさらに、トランプ候補が大統領になれば全国的に中絶を禁止し、女性の妊娠を監視する政府機関が各州に置かれることになるとも述べた。トランプ陣営はこれを否定している。

ヴァンス氏はこれ対して、自分は全国的な中絶禁止を支持しないと反論。そのうえで、生殖に関する権利については、連邦政府ではなく各州が決めるべきことだと述べた。さらに、共和党は生殖権に関する問題で「国民の信頼を回復する必要がある」として、次のトランプ政権は家族を支援する政策を推進すると話した。

銃規制

銃による暴力に話が移ると、ウォルズ氏は自分もハリス副大統領も銃の持ち主だとして、武器保有の権利を保障する憲法修正第2条があることも理解していると答えた。そのうえで、子供たちが要塞のように厳重警備された学校に通い、乱射事件におびえ、避難訓練をしているのが日常ではない国が世界にはあるのだと指摘した。

ヴァンス氏が「この国の心の健康の危機が起きている」ことが銃による暴力の蔓延(まんえん)に関連していると述べると、ウォルズ氏は「心の健康の問題があるからといって、暴力的だということにはならない。問題はただ銃そのものだということもある」のだと述べた。

ヴァンス氏は、自分の子供が銃乱射事件を起こした場合に両親は責任を問われるべきかと質問されると、銃撃事件の大半は違法な銃によるもので、ハリス氏の「国境開放」によって違法の銃が大量に国内に入っていると、ハリス批判を繰り返した。

そのうえでヴァンス氏は、学校の扉や窓を強化するなど、学校の警備強化が必要だと述べた。

住宅補助

ヴァンス氏は次に、安価な住宅の供給に話題が移った際も、住宅費の高騰は移民のせいだと言いたいわけではないものの、「何百万人もの不法移民が入国できるようにしたカマラ・ハリスのせい」で住宅費が高騰しているのだと主張した。さらに、ハリス氏が公約として、最初の住宅購入時の頭金助成など住宅取得策を掲げていることについて、「どうして副大統領としてすでに実施していないのか」とここでも問いただした。

さらにヴァンス氏は、連邦政府が「何百万人」もの移民に無料で住宅を提供していると述べたが、そうした全国的な政府事業はない。ヴァンス氏は、ニューヨークやシカゴなど一部の北部都市で用意されているシェルターに言及している可能性がある。

ウォルズ氏は、「そもそも手が届く値段の住宅が足りていない」として、住宅購入の頭金を助成しているミネソタ州ミネアポリスではインフレ率がきわめて低く抑えられていると指摘。「住む家が安定している人は、安定した職を得て、安定した職のある人は子供たちを学校に行かせられる。長期的にはこういうことが、(政府の)支出削減につながる」と述べ、ハリス副大統領が掲げる住宅取得支援策の重要性を強調した。

医療保険

医療保険については、バラク・オバマ政権が導入した医療費負担適正化法(通称オバマケア)をめぐり、共和党はこれを撤廃するつもりだとウォルズ氏は批判。これに対してトランプ候補は大統領としてオバマケアを救ったのだとヴァンス氏が主張すると、ウォルズ氏はトランプ候補のもとでは再び何百万人もの人が医療保険の保護を失うことになると反論。

ハリス氏との討論会では、トランプ候補がオバマケアの代案はあるのかと司会に聞かれ、「プランはないが、プランのコンセプトはある」と答えたことが話題になったが、ウォルズ氏はこれを聞いた時に自分は、「小学校4年生の教師みたいに大笑いしてしまった」と述べた。

選挙結果を認めるか

最後のテーマは、大統領選の結果を認めるかどうかだった。

ヴァンス氏は、自分が当時すでに上院議員だったら、2020年大統領選の結果を認定しなかったし、各州に代理の選挙人名簿を提出するよう求めたはずだと発言している。これについて司会者が、それは違法で違憲ではないのかと質問すると、ヴァンス氏は、連邦議会襲撃の起きた2021年1月6日にトランプ候補は平和的な抗議を呼びかけただけで、1月20日には平和的に権限を移譲したと主張。それよりも、ハリス候補による「検閲」のほうが民主主義にとって脅威だと述べた。

これを聞いたウォルズ氏はヴァンス氏に向かって、「ドナルド・トランプは2020年大統領選で負けたのか」と、直接質問した。するとヴァンス氏は「大事なのは未来だ」「巨大IT企業が市民を検閲して黙らせることのほうが問題だ」などと、質問に直接答えなかった。

そのため、ウォルズ氏は「今のが決定的な、答えになっていない答えだ」として、「だからこそこの壇上に、(トランプ政権の副大統領だった)マイク・ペンスがいないんだ」と強調した。

ウォルズ氏はそのほか、ソーシャルメディア企業が扇動的な投稿を認めないのは「検閲」などではなく、本を禁止することこそ検閲だと批判した。共和党が統治するフロリダ州やテキサス州など一部の州では当局が、性的少数者や性行為などについて描写のある特定の本を学校図書館などで禁止する動きが広がっている。

両陣営は何を国民に示しているのか

結びの言葉としてウォルズ氏は、トランプ候補は「アメリカの殺戮(さつりく)」といった表現を繰り返し、国内に犯罪が蔓延(まんえん)しているなど力説しており、大勢に恐怖を植え付けることで支配しようとしてきたが、自分たちはそのような生き方をする必要はないのだと強調。ハリス候補はそれに代わる選択肢を提供し、前向きな喜びと中産階級への解決策を示しているとした。

ハリス氏が示す将来を支持して、リベラルのバーニー・サンダース上院議員から共和党のディック・チェイニー元副大統領、そして人気歌手テイラー・スウィフトさんら多岐にわたる顔ぶれが一様にハリス氏を支持しているのだと、ウォルズ知事は述べ、ハリス陣営は前向きに、アメリカ国民の自由を重視していると力説した。

これに対してヴァンス氏は、バイデン氏とハリス氏のもとでアメリカ人の暮らしは厳しくなり、生活費は高騰したと批判。ハリス氏は副大統領として4年近く、アメリカを率いる機会があったがそうしてこなかったとして、民主党政権が続けばアメリカ国民は夢を実現できないので、国民には「変化」と「新しい方向」が必要なのだと結んだ。

(英語記事 Walz and Vance focus attacks on presidential candidates in civil VP debate

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c78d4gpeqxvo


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