その中核を担う日本最大級の洋上ウインドファームの開発が佳境を迎えつつある。
海洋国 日本の再エネの未来を握る洋上風力を成功に導くものは何か。
建設・運転に携わるJパワー(電源開発)の動きから読み解く。
北九州・響灘に出現する国内最大級の洋上風力
2023年10月末、北九州市若松区沖。それ自体がまるで建設現場のように無骨な雄姿を見せる巨大な起重機船が、紺碧の海原に出現した。
「響灘」と呼ばれるこの港湾エリアで昨年3月に始まった、国内最大級の洋上ウインドファームの建設になくてはならない主役、SEP船(自己昇降式作業台船)の登場だ。4本の屈強な脚を海底に着床し、安定させたデッキ上で1600トン級のクレーンを稼働。全長50mもの基礎杭の打設や風車の据付を行う。
2024年8月現在、作業は基礎杭施工とジャケットの据付が進行中。来春から風車据付、試運転に入る計画だ。
竣工すれば、設備容量9600kWの大型風車25基が洋上に並ぶ、最大出力22万kWの日本で最も大きな洋上風力発電所が誕生することになる。200mに達する風車の高さは東京都庁(243m)に匹敵し、約5億kWhを見込む年間発電量は一般家庭約17万世帯の電力に相当する。運転開始は2025年度中を予定している。
この北九州響灘洋上ウインドファームの建設・運営は、北九州市の公募で選定されたひびきウインドエナジー株式会社が担う。そこに出資するJパワーの嶋田善多副社長(再生可能エネルギー本部長)は次のように話している。
「若松区には当社の総合事業所と研究所があり、60年ほど前から緊密な関係が結ばれてきた土地柄です。同時に風力発電は当社にとって、水力に続く再エネ事業の柱として四半世紀の実績を積み上げてきた領域です。その接点にある響灘のプロジェクトは、カーボンニュートラル実現に向けた日本の切り札とされる洋上風力を前進させるため、またここを拠点にSDGs未来都市を標榜する北九州市の挑戦に貢献するためにも、非常に意義ある仕事だと考えています」
そのためJパワーは2011年、響灘で洋上風力発電の実証研究を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で実施。調査設計・建設・運転に関する知見の獲得に努める一方、2018年には英国北海沿岸トライトン・ノールでの大規模洋上風力プロジェクトに出資。建設段階から技術者を派遣し、当時、洋上風力設置容量で世界シェア9割以上を占めていた欧州の知見を学んできた。その経験と成果が、響灘に生かされている。
「SEP船の活用もその一つです。遠浅の海が少ない日本には、沖合での建設に適した機材や技術が欧州ほどありません。最先端の現場を知り、人を育てることで、そこを補う必要がありました。
こうした姿勢は当社に流れるDNAとも言うべきもので、創業まもない1956年、米国の技術に学んで3年の工期で完成させた佐久間ダム・発電所(静岡県浜松市)にも通じます。10年以上かかるといわれた難工事ですが、超大型の土木重機を輸入、米国流の最新工法を日本の事情に適用させ、国内最大の水力設備へと結実させました。この経験が、その後の日本の土木建築技術の飛躍的発展につながったと聞いています」
英国から響灘へとつながれた技術と人材の絆は今後、2028年度の運転開始に向けて始動した「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖における洋上風力発電事業」へと受け継がれることになる。