さらに、戦争が始まる相当前の段階から米国は直接関与しないということを明言するのは、プーチンに対するオープン・インビテーションに他ならない。実際に直接関与せよ、とまで言っているのではない。直接関与しないことを明言する必要がどこにあったのかと言うことだ。
関与するかどうかとそれを表に言うかどうかは別問題だ。米国の直接関与の「可能性」を維持していることの抑止上の効果をどのように考えているのだろうか。
この社説は、特に中東について必要以上にバイデンに対して厳しいという印象も持つ。イスラエルの現在の行動との関係では、何の躊躇も無くイスラエルの肩を持っているし、イランへの対応については、極めて厳しい。
「関与疲れ」が米国の多数派
アジア太平洋の部分の評価は素人っぽい。クアッド首脳会合をやったばかりにも関わらず、それへの言及が無い。インドとの関係強化に対する評価も一言も無い。対台湾の曖昧政策に反するようなバイデン大統領の「意図的失言」への言及も、中国への経済面での強硬姿勢や対話の維持努力による「関係管理」にも触れていない。
また、そもそも、バイデン大統領の各種対応は、オバマ元大統領が引き金を引いた「世界の警察官からの撤退」の流れが、10年経った今、完全に米国における多数派となったことが背景にあるのは勘案すべきだ。トランプ候補について言えば、トランプ候補が今の米国を作ったのではなく、米国がトランプを作ったのである。
従って、この社説が末尾で言うように、「次の大統領はバイデンの失敗政策を放棄しなければ、世界的紛争に破滅的な結果をもたらす」というのは、威勢は良いが、米国内の関与疲れ自体が大きく変わらない限り、言うほど簡単なことではない。