紅白歌合戦に至っては、2000年代中盤は1組か2組だったのが、09年ごろから増えだして15年には7組にも達していた。
「幅広い世代層を獲得するための重要なパートナー」
取材班は、芸能やドラマに関わったOB約40人のインタビューを試みた。しかし、なぜジャニーズ事務所が重用されるようになったのか、その事情ははっきりと浮かび上がらなかった。ただ、ひとりの幹部の名前が頻繁に出てきた。
元NHKの若泉久朗氏である。番組制作のトップである制作局長を15年から17年まで務めた後、20年から22年まで理事。退職後はジャニーズ事務所の顧問となって話題を呼んだ人物である。現在もジャニーズ事務所が解体されて、被害者補償を担当するスマイルアップとタレントのマネジメントをするスタートエンターテイメントとなった後者の顧問を続けている。
取材班は、1年前からこの若泉氏に対して取材の申し込みを繰り返してきた。
そして、9月上旬に若泉氏に記者とカメラマンがアポイントなしの取材を試みる。
「(ジャニー喜多川氏の性加害事件について)当然検証する義務が(我々には)ある」という記者に対して、若泉氏は次のように答えながらカメラを手で覆って撮影を拒否するのだった。
「なんで僕なんですか。しかも、仲間じゃないですか」
「(答えないのは)なぜなのかって、まだ(ジャニーズ事務所=分割した会社)関係しているからです」
「そこは、ちゃんとスタートエンターテイメントの広報を通してもらわないと」
取材班に後日、スタートエンターテイメントから届いた書面による回答は以下である。
「(週刊)文春の報道は知っていましたが、NHKも報道していませんでした。
私がドラマ部長だった時期はNHKへの接触率が減少し続け『このままでは将来公共放送として生き残れるか』という危機感が広がっていました。
NHKはもっと幅広い世代の視聴者層に見て頂き信頼を高めることを経営方針に定めました。
幅広い世代層を獲得するためには旧ジャニーズ事務所は重要なパートナーの一つでNHKが支持される重要な役割を担っていました。
公共放送としてこれからも支持されるためにはどうあるべきか、NHK自身が問われていると考えます」
NHKは10月16日に次のような内容とコメント発表した。
「NHKはスタートエンターテイメントの所属タレントの出演依頼を可能とする」
コメントは以下である。
「この問題はこれで終わったとは考えていません。
NHKは当時の認識や対応が十分ではなくメディアの責任を果たせなかったと自省しています。
改めて性加害をはじめとする人権侵害は決して許さないという姿勢を取引先も含めて浸透させ新しい事実が出てきた場合の検証は報道・番組を通じて行い公共放送としての役割を果たしていきたいと考えています」
冒頭からご紹介しているNHKの説明責任については、番組の圧巻のラストである。