例えば接戦州であるペンシルベニア州で支持を獲得すべく環境汚染や地盤への影響が懸念される「フラッキング(水圧破砕法)」というシェールガス・オイルの掘削方法を擁護すると、環境保護派から不満の声が出てくる。またペンシルベニアで銃購入希望者が増えていることを意識して、ハリスが自分も銃を持っていると発言すると、銃規制派が反発する。ミシガン州を意識してアラブ系に配慮する発言をすると、反イスラエルだと批判される。ハリスは政策的立場が不明確だと批判されたが、政策的立場を示すと党内がまとまらなくなってしまうのが民主党の現状である。
伝統的に、共和党は予備選挙段階では対立があっても本選挙では大同団結する傾向があるのに対し、民主党は党内対立を本選挙の際にも引きずる傾向がある。ハリスからしてみれば、反トランプ、そして民主党内でコンセンサスが比較的あると思われる中絶問題の2つを中心に据えて「ふわっと」支持をまとめるのが最適解だったのだろう。これでは、選挙直前に支持基盤を広げることはほぼ不可能である。
ホワイトシフト化する中南米系
他方、トランプについては、岩盤支持層を超えて支持を獲得するのは容易ではないと指摘されてきた。だが、出口調査の結果を見ると、伝統的な共和党の支持基盤を超えた支持を獲得している。
一般的に、民主党はマイノリティの政党、共和党は白人の政党だと言われている。今回の選挙でもそのような傾向はあるが、トランプは思いの外マイノリティ票を獲得している。
例えば中南米系に関しては、全米の数字を見ると、53%がハリスに投票し、45%がトランプに投票している。トランプは7つの接戦州では中南米系の票のおおむね4割以上を獲得しており、ノースカロライナ州では50%、ミシガン州に至っては62%を獲得している。
また、黒人については全米の数字を見るとハリスが86%を獲得しているが、接戦州の中ではウィスコンシン州では77%、アリゾナ州では75%と、ハリスが黒人であることを考えると物足りない数字になっている。
これは、民主党が中南米系や黒人という本来の支持者を十分に固めきることができなかったことの表れである。民主党は伝統的にアイデンティティや多様性の重要性を強調する一方で、中南米系や黒人の中にある多様性を必ずしも尊重せず、「反トランプ」「中絶などの女性の権利を守れ」などの訴えばかりを強調していたように思われる。
例えば中南米系に関しては、トランプが反(不法)移民の発言を繰り返していたことから、中南米系の支持をおおむね獲得することができると考えていた可能性がある。だが、中南米系は実は非常に多様である。