民主党支持の傾向がそれなりに強いのは間違いないが、キューバ系などは元々共和党を支持している。また、中南米系はカソリックが多いために社会的争点では保守的であり、民主党に対する政党帰属意識が強いわけではない。
中南米系の中でも米国生まれの人や家庭でもっぱら英語を話している人たちの間では、2016年の段階でもトランプ支持の割合はそれなりに高かった。不法移民問題に不満を抱いている中南米系はたしかに存在する。
様々な公式の手続きを経て米国籍あるいは永住権を取得した中南米系にとっては、不法移民は迷惑な存在である。不法移民と同じ中南米系だということで、レイシャル・プロファイリングの対象になったり批判されたりするため、不満を抱いている可能性がある。中南米系有権者の前でトランプが不法移民批判を展開すると、「自分たちもメインストリームの米国人として受け入れてもらえた」と好意的に受け止めた人々もいたと指摘されている。
ロンドン大学のエリック・カウフマンは、『ホワイトシフト』という論争的な本を著している。同書は米国だけではなく英国、豪州なども対象にした著作であるが、その中で、白人の伝統的な価値観を自発的に身につけて白人化しつつあるマイノリティの存在に着目している。
米国の中では中南米系やアジア系にそのような傾向が見られるが、そのような傾向が今回の選挙で顕著になったのかもしれない。ホワイトシフト化しつつある中南米系にとって重要なのは、中南米系としてのアイデンティティではなく、自らを取り巻く経済状況だった。
民主党に幻滅する黒人の存在
黒人に関しても、一括りにできない多様性がある。典型的な黒人としてイメージされるのは米国内で奴隷だった人を祖先に持つ人だろうが、彼らと近年アフリカなどから移民してきた人では、明らかに状況が違う。
アフリカなどからやってきた人は出身国ではエリートであり、米国の黒人貧困層などと一体感を持つとは限らない。彼らが共和党に親和性を感じる可能性も当然あるだろう。
また、黒人教会は社会的争点においては保守的であり、中絶や同性婚を積極的に推進したくないと考える人も存在する。南部の接戦州であるノースカロライナやジョージアでは、ハリスが中絶問題を強調しすぎると黒人層が離反するのではないかと懸念する人々も存在した。黒人教会からの動員が弱くなると、トランプを支持するとまではいかなくても、ハリスへの投票をやめる人が出た可能性もあるだろう。
それに加えて重要なのは、経済的に困窮している黒人の間で、民主党に対する幻滅が生じた可能性があることである。民主党は、黒人が共和党に投票するはずがないという認識の下、連邦政府に財政的な余裕がないこともあり、困窮した黒人に対して経済的・物質的な支援を積極的には行ってこなかった。象徴的な次元で黒人のアイデンティティの重要性を強調しさえすれば支持されるだろうという態度を取る政治家が民主党内にいることへの不満があったのは間違いないだろう。