そのような黒人の不満は、テキサス州知事のグレッグ・アボットとフロリダの州知事のロン・デサンティスが、南部の国境周辺州から大都市に不法移民を移送したことによって顕在化した。保守派から「聖域都市」と揶揄されることもあった大都市は、不法移民にシェルターを準備し、食べ物を提供した。だが、経済的に困窮してホームレスになるかもしれないと懸念している黒人たちは、自分たちにはシェルターも食べ物も提供してもらえないのに、なぜ不法移民は優遇されるのかとの不満を抱くようになった。
このようなマイノリティは、民主党はアイデンティティなどの抽象的なことばかり強調して、実質的な支援をしてくれないとの不満を抱くようになった。トランプがそれらマイノリティの切り崩しを効果的に行ったことが、今回の選挙結果につながった可能性があるのではないだろうか。
トランプ現象をどう理解するか?
トランプ現象をどのように解釈するかについては様々な議論がある。リベラル・デモクラシーの理念に疑問を突き付けるポピュリズムの動きであるとか、個人的な野心に突き動かされた情動的な行動に共感する人々の運動だというような見方もあるだろう。だが、トランプ現象には、かつてならば民主党を支持していたであろうが、民主党によって「声を汲み上げてもらえなかった」人々の声に耳を傾けたという特徴もあるように思われる。
16年大統領選挙時にトランプの岩盤支持層になったのは、ラストベルトと呼ばれる地域に居住する白人労働者層だった。1970年代までならば労働組合に参加し、労働組合を介して民主党経由で利益・関心が政権に吸い上げられていた人々である。
だが、経済成長が終焉し、民主党が徐々に変質していく中で、彼らの声を民主党が汲み上げることはなくなった。その状況に不満を感じた人々の支持を獲得したのが16年のトランプだった。
そして24年大統領選挙では、伝統的には民主党を支持していたものの、民主党によって声を汲み上げてもらえなくなったマイノリティの人たちの声を吸い上げたことが、トランプに勝利をもたらしたのではないだろうか。トランプが意識的にそのような行動をとっていたのかはわからない。だが、トランプがそのような層にウイングを広げることが可能になった背景には、彼らの民主党に対する不満があるのは間違いないだろう。
伝統的には民主党が労働者の政党で共和党が資産家の政党というイメージがあったが、トランプ以降は、民主党が金持ちの政党で共和党が労働者の政党というイメージが生れつつある。トランプが米国の政党政治を変質させているのは間違いないだろう。今後の展開に注目が必要である。