2024年11月21日(木)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2024年11月12日

 頼清徳総統はまずは手紙をしたため、台湾の兪大㵢・駐米代表に託した。兪大㵢代表は、トランプ新政権の国務長官候補にも名前が挙がっているロバート・オブライエンとユタ州ソルトレークで昼食を共にし、手紙を手渡したと米CNNが報じた。

 台湾のメディアでは連日、トランプ政権の台湾政策の方向性を論じる記事や論評がほぼ誌面を埋め尽くしている。感覚的には3割が楽観論、7割が悲観論だ。もちろんメディアごとに民進党政権に対する異なるスタンスがあり、民進党に批判的なメディアは悲観論を多く掲載することはいうまでもない。ただ、台湾社会全体に不安が消えないのは、やはりトランプ氏が抱える「不確定性」への恐れに加えて、台湾がいま最も中国と対抗するうえで頼りにしている「民主同盟」の結束にヒビが入ることにある。

弱まる台湾の「盾」

 バイデン政権のように多国間協力を「民主」「自由」の理念でまとめていくスタイルは今後、二国間協議を好むトランプ政権によって過去のものとされる。そうなると台湾には有利とは言えない。

 頼清徳総統は、5月の就任演説で「民主」の価値と台湾の存在意義を結びつける発言を次々と行った。

 「世界の台湾への重視と支持に感謝し、世界に向けて表明したい。民主と自由を台湾は絶対に譲らない」「台湾は世界の民主の鎖のなかの輝きであり、民主台湾の栄光時代が訪れた」

 これらの発言は、中国が軍事力と強権によっていかに台湾を飲み込もうとしても、台湾が民主主義を守っている限り、世界は台湾の味方であり、中国は易々と台湾に手をだすことはできない、という判断に基づいている。

 実際、バイデン政権はトランプ第一期政権時代に損なわれた同盟・友好国との関係修復に奔走し、「民主同盟」を築き上げながら中国やロシアなどの権威主義体制の脅威に対抗していく大戦略を描いた。外交関係がないとはいえ、台湾が日本・韓国と並んで東アジアの重要なパートナーであることを米国は隠さず、米国と台湾の軍事的協力も活発に展開されるようになり、武器供与もかってないレベルのものが台湾に売却されるようになった。

 しかし、トランプ氏は、民主や自由といったイデオロギーには頓着せず、むしろ実利を重んじる発想をしてくることは間違いない。台湾が自らを中国から守るための「盾」としてきた民主の効能が薄れることはほぼ確実だと言えるだろう。

 もちろん前述のように台湾には半導体もあり、米国と中国の緊張関係も簡単に解消するとは思えない。トランプ新政権がしかける関税引き上げなどの貿易面での圧力も、まずは中国相手にかけから始めるというのが一般的な見方だ。

 そうなれば中国は間違いなく反発し制裁返しを行い、米中関係は今以上に緊張するだろう。米中が緊張するほど、米国にとっての台湾の価値は上がるという現実のなかで、台湾はトランプ氏とのパイプ作りを急ぐしかない。

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