学校統廃合の人口流出への影響
もちろん、通う子供が減ればそれに応じて学校数を減らす必要はある。しかし、そのペースをどのようにコントロールするのかは慎重に判断すべきであろう。
その判断において、学校の統廃合がもたらす諸々の影響は十分に把握しておく必要がある。例えば、学校が減れば子供の教育を考える人が流出してしまう可能性は十分にあり、統廃合の人口移動への影響を定量的に把握することは極めて重要であろう。
特に、小学校の場合、中学校や高等学校に比べて子供の通学可能な範囲が狭いため、小学校の閉校は周囲の小学生のいる世帯の流出を招きやすいと思われる。しかし、こうした効果の可能性を指摘するのは簡単であるが、人口が減ったから学校が減ったのか、学校が減ったから人口が減ったのかを判別するのは難しい。
これに関して、ロンドンスクール・オブ・エコノミクスのカタルド教授とボローニャ大学のロマーニ教授による興味深い研究がある。両教授はイタリアの08年に開始された学校再編に注目し、小学校の閉校が地域経済に及ぼす影響を実証的に研究した。
イタリアの最小行政単位の自治体は約8000あり、日本の市区町村が現在1718であるので、日本とイタリアの総人口の差(日本がイタリアの約2倍)を勘案すると、イタリアの最小行政単位自治体は日本の市区町村よりかなり小さい。そのため、小学校が一つしかない自治体も多いのであるが、そうした自治体に注目し、小学校が閉校となったことの人口や所得への影響を07年から18年のデータで検証した。その際、政策の変更により小学校統廃合の基準が変わった時期があるという情報を利用して小学校統廃合が人口や所得に及ぼす影響を識別する方法を考案した。
分析の結果、小学校が一つしかない自治体で小学校が閉校になると、小学生の子供を持つ可能性の高い35~49歳の人々が1~2割減少し、自治体の総所得が約1割減少することが分かった。また、その効果は経済の中心地から遠い自治体や隣の自治体の小学校まで距離がある自治体ほど強いことも明らかになった。
地域経済政策として検討されるべき課題
もちろん、この結果はイタリアについてのもので、日本で同様の結果が観察されるとは限らない。さらに、分析対象も小学校が一つしかない自治体であるため、それが閉校になることの影響が非常に強く観察されていると考えられる。そのため、日本の多くの自治体で小学校を一つ閉校する効果はこの研究の結果よりはかなり小さいかもしれない。しかし、この結果は、少なくとも確かに学校閉校が人口流出を促してしまうことを示している。
図2で確認したように、昨今の情勢として、多くの都道府県で生徒数の減少よりも小学校数が大きく減少しており、こうした都道府県で、小学校を閉校した自治体から、それを理由にした人口流出がどの程度生じたのかは検証する価値があるであろう。
今後しばらくの間は少子化が続くと考えられ、学校の統廃合は避けられない。能登半島地震のような災害後の復興においても、苦渋の決断が余儀なくされる。
生徒の数が減れば、統廃合は致し方ない判断になるが、やり方を間違えれば、地域の衰退に拍車をかける可能性もある。どのように進めるのがよいのかを考えるためにも、学校統廃合の人口流出や所得に代表される地域経済への影響を定量的に把握した上で政策判断する必要があるであろう。