『ナミビアの砂漠』(24年、山中瑶子監督)では、都会の孤独のなかで揺れ動く女性を演じて、恋人たちとの関係は「悪の華」である。『あんのこと』(24年、入江悠監督)でも、中学生から母親の命じるままに少女買春を強いられ、周囲の人々によって一瞬救われたかにみえたが、再び悪の道に戻ってしまう少女を演じて胸を打った。
コメディアンヌからサスペンスまで演じる永野芽郁
日本を代表する若手女優のひとりとして、永野芽郁は異論のないところだろう。多彩な役をこなして、どれも“代表作”といってもいいすぎではないだろう。
映画『はたらく細胞』(2024年、武内英樹監督)のなかで、急性白血病に苦しむ高校生・漆崎日胡(芦田愛菜)の体内で、白血球役の佐藤健とともに赤血球役として闘う永野のコメディアンヌぶりは素晴らしかった。芦田愛菜については、これからの俳優修業にかかってはいるが、娘役への脱皮に苦しんでいるようにみえる。ひょっとすると、この映画が代表作のひとつになるかもしれない。脇道にそれた。
永野芽郁の主役作としては、映画『そして、バトンは渡された』(21年、前田哲監督)も忘れがたい。義母の梨花(石原さとみ)が、森宮優子(永野)とは血のつながない父親3人をリレーされるように成長していく物語である。義母がなぜそのような行動をとったのか、サスペンスのように明らかにされて涙を誘った。
「悪の華」に永野が変身を遂げて演技の幅を広げたのが、Netflix配信の『御手洗家、炎上する』(2023年)だろう。大病院を経営していた父・治(及川光博)のもとで裕福に育っていた、杏子(永野)は、実家が母・皐月(吉瀬美智子)の過失によって13年前に全焼する。皐月は、火事のショックで記憶喪失になる。皐月の友人の真希子(鈴木京香)と再婚してしまう。
杏子(永野)は、山内しずかの偽名を名乗って、家政婦として御手洗家に入り込んで、火事が母の過失によるかどうか探り始める。そして、真実が明らかになるとき、御手洗家はメディアやネットによって“炎上”する。
モデル出身の「悪の華」八木莉可子
やはり、Netflix配信のドラマ『First Love初恋』(2022年)で、主役の満島ひかりの少女時代を演じてスターへの足がかりをつかんだ、八木莉可子。ドラマは、宇多田ヒカルの『First Love』『初恋』にインスパイヤ―された作品である。全9話。筆者は3回も観た。
北海道の田舎の高校で、野口也英(満島ひかり、少女期・八木莉可子)と、並木晴道(佐藤健、少年期・木戸大聖)は恋人同士になる。也英の将来の夢はキャビンアテンダント、晴道はパイロットで自衛隊に入隊する。大学生時代に也英は事故に遭って、晴道との記憶をはじめ一部を失ってしまう。担当医師だった向坂行人(向井理)に見初められて、大学を中退して結婚する。そして、生まれたのが息子の綴(つづる・荒木飛羽)だった。しかし、向坂家の家風が也英の実家の環境のずれから、離婚してしまう。
別れと再会、記憶喪失とその回復の物語は、幾度も映像界で取り上げられてきた。このドラマは北海道の春夏秋冬を背景として、かつさまざまな人間模様が重なり合って独特の雰囲気をかもしだしている。
宇多田ヒカルの『First Love』『初恋』が要所に流れるのも心を打って、涙なしには観られない。Netflixの非英語ドラマのなかで、世界各国で週によって1位を獲得したのもよくわかる。