モデル出身にして、長い黒髪の美少女である八木莉可子が、一転してドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(2024年、日本テレビ)に登場したときは驚いた。潜入捜査官だった父が殺された特殊詐欺グループに復讐するために、兄の渡良瀬貴一(竜星涼)とともに潜入してふたりでその幹部までになる、優貴役である。彼女はインターネットのネットワークにしのびこんだり、データを盗んだりする技術を持っている。
荒唐無稽ともいえる物語を「悪の華」となって演じる。八木莉可子のこれからの女優としての可能性を感じさせる傑作だった。
〝妖しい女優〟松本若菜
いまや大河ドラマにも出演している、遅咲きの美貌の女優・松本若菜もそのひとりだろう。ドラマ『復讐の未亡人』(22年、テレビ東京)は、自殺した夫のかつての職場に姿を変え、偽名を名乗って派遣社員として働いている。深夜帯なのできわどいシーンもこなしながら、復讐をはかる未亡人役を演じた松本には刮目した。
『西園寺さんは家事をしない』(24年、TBS)では、俳優人生18年にしてゴールデンタイムで、初の主役を得た。続いて『わたしの宝物』(24年、フジテレビ)では、夫ではない男性の子どもを宿して育てる、という“悪女”ものでも主役を務めた。
“妖しい女”俳優・木村多江をドラマからバラエティの人気者にしたきっかけも、悪女ものではなかっただろうか。ドラマ『ブラックリベンジ』(17年、読売テレビ制作、日本テレビ系)である。夫の政治家を捏造ネタで葬った週刊誌の編集部に、契約ライターとして入り込んで捏造をあばいていった。
もうひとりの妖しい女優・山口紗弥加のドラマ『ブラックスキャンダル』(18年、読売テレビ制作、日本テレビ系)も忘れがたい。人気女優の藤崎沙羅(山口)は、不倫スキャンダルを捏造されて、すべてを失う。整形手術によって顔を変えて、名前も変えた上で過去に所属していた、プロダクションに敏腕のマネジャーとして入り込む。過去のスキャンダルの裏をあばき、プロダクションの経営者の長男との愛……。
山口沙也加は、その後NHKの連続テレビ小説『おかえりモネ』(21年上期)、『わかば』(04年度下期)など、わき役として欠かせない存在になっている。
横浜流星、河合優実、永野芽郁、八木莉可子…将来が期待される俳優たちはいま「悪の華」の通過儀礼をうけているのかもしれない。(文中敬称略)