スタートアップ専門の展示コーナーに
大企業がこぞって出展
その意味ではベンチャー企業の育成に力を入れるCESの取り組みは非常に興味深い。代表格が「Eureka Park (ユーレカパーク)」と名付けたスタートアップ専用の展示会場だ。出展料を安く抑え、スタートアップでも出展できるようにしたのが特徴だ。4500社・団体以上の出展者のうち約1500社がベンチャー企業だが、その多くがこの会場に集まっている。「Eureka(発見した!)」とは古代ギリシャの数学者、アルキメデスが浴槽で「浮力の法則」を発見した時に叫んだ言葉で、ブースはそれにちなんで名付けられた。
ところがそのユーレカパークにも最近、異変が起きている。ユーレカパークでデビューし成功したベンチャー企業は通常のメインの会場に卒業していくのが暗黙のルールだが、最近、大企業がユーレカパークにブースを持つようになったからだ。正確に言うと、大企業が自分の技術や製品を披露するわけではなく、自らがコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)のような形で支援する新興企業を集めたブースを構えるようになった。
特に熱心なのが韓国の有力企業で、サムスン電子は「Samsung C-Lab」、LG電子は「LG NOVA」、現代自動車グループは「HYUNDAI ZERO1NE」の名称でそれぞれブースを設けている。日本の大手企業は自らが前面に立ちたがるが、韓国の大企業は新しいベンチャー企業の育成にも力を注いでいる。こうした韓国企業の取り組みは日本の大企業も大いに参考にすべきだろう。
日本の家電産業を置き換える
新技術やイノベーションが重要に
もっとも日本にもベンチャー企業を育てようという気運はある。ユーレカパーク内には「JAPAN TECH」という日本ブースがあり、ベンチャー企業がまとまって出展してきた。さらに経済産業省と日本貿易振興機構(JETRO)がベンチャー育成制度「J-Startup」の対象企業を集めた「ジャパン・パビリオン」を設けるようになった。
政府が支援するこのパビリオンにはベンチャー企業しか出展できないが、一方のJAPAN TECHには今年、NTTドコモが人間拡張技術の「FEEL TECH」ブランドでブースを構え、ドコモ子会社のNTTコノキューや日本情報通信、TBSテレビといった大企業が出展した。キヤノンに至っては、今年はメイン会場への出展を取りやめ、代わりに米国の子会社がユーレカパークに独自に出展し、環境やスポーツなどの最新技術を展示した。
大企業がスタートアップコーナーに出展するのは掟破りの感もあるが、日本の大企業がベンチャー企業と連携を模索したり、新しいイノベーションをスタートアップと一緒に起こそうとしたりする動きは前向きに評価してよいといえる。その意味では、大企業中心の日本の家電産業が競争力を失い、CESを舞台にそれを置き換える新しい企業群や仕組みが日本にも登場してきたことは好ましいことだ。
まだまだ韓国や中国の勢いには負けるが、日本企業がカムバックしてきた今こそ、CESのような場で日本が持てる新しい技術やイノベーションを世界に発信し、再び日本の存在感を高めていく必要があろう。そう願うのは、今回CESを訪れた日本人全員に共通した思いではなかったかと思う。