2025年3月1日(土)

Wedge OPINION

2025年1月29日

リーダーに必要な「六つの能力」と
人の心を動かす「物語り」

 リーダーは組織的な知識創造を推進しながら、適時に最良の判断を下さなければならない。そのために必要な第三の知識が「実践知」だ。実践知を持つリーダーは、①善い目的をつくる能力、②ありのままの現実を直観する能力、③場をタイムリーに作る能力、④直観の本質を物語る能力、⑤物語りを実現する能力、⑥実践知を組織する能力という六つの能力を持つ。

 実践知リーダーが判断する際に重要なのは、「企業は社会の公器」であるという意識を持ち、世のため人のために何が最善の判断かの基準を持つことだ。また、この基準を組織で共有することも必要だ。物語りもまた重要な能力だ。戦略やビジョンを静止画ではなく、コトとして動的に、その時々の文脈に合わせて物語ることで、人の心を動かし、多くの人を動員するプロジェクトが成功するのである。戦略研究の大家であるフリードマンが言うように、戦略とはオープンエンドの物語りであり、計画、分析ありきではないのである。

 京セラには、「敬天愛人」という社是があり、78項目の京セラフィロソフィーが共有されている。78項目は経営理念を実現するための具体的な行動指針であり、「渦の中心になれ」「大胆さと細心さをあわせもつ」など生き生きとした言葉で描かれ、日々職場で語られ、その意味づけが行われている。

 最後に、日本企業が知識創造力を取り戻すにあたり、懸念しているのが昨今の働き方改革や欧米式の人事管理、株主ばかりを重視した経営だ。かつての科学的アプローチによるマネジメントへの偏りと同様、これらは今のままでは逆作用をもたらすのではないか。

 働き方改革は主に労働時間削減に重きを置いて進んでいるように見受けられる。創造には我を忘れる厳しい自己超越が必要なのだ。

 また、人事評価において過度に成果主義を入れ込むことは、自らを直観の場に置くこと、共感のための対話を行うことなどへのインセンティブを失わせることが危惧される。個人の仕事への評価はアウトプットだけではかるのではなく、会社が社会にもたらしたい付加価値への貢献度でも、同時にはかるべきである。

 これからは、「あれか、これか」ではなく、「あれも、これも」の経営が必要だ。「暗黙知と形式知」、「感性と知性」、「アナログとデジタル」、「安定と変化」は相互補完関係にあり、対立しつつも一つの事象に共存する。つまり、物事や問題を二項対立(dichotomy)として捉えるのではなく、二項動態(dynamic duality)として双方を両立させ、全体の調和を追及する。

 双方が上手く調和するバランスは、現実の問題と全人的に直接向き合い、仲間と共に一生懸命試行錯誤することで見えてくる。昨今は、IQ(知能指数)ではなく、非認知スキル(身体知)の習得が成功のもとだという研究成果が出ている。日々変化する厳しい環境において、組織構成員の持つ潜在能力を解放することを通じて、最善の判断を下しながら全員経営を実現するのがリーダーであるが、そこには共通善に向かって必死にやり抜くというファイティング・スピリッツが必要なのである。

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Wedge 2019年8月号より
 ムダを取り戻す経営  データ偏重が摘んだ「創造の芽」
ムダを取り戻す経営 データ偏重が摘んだ「創造の芽」

バブル崩壊から30年の時が流れたが、日本企業はかつての勢いを取り戻せていない。

それもそのはず、この間、日本は世界がアッと驚く「価値」をどれだけ生み出してきただろうか。

合理化、生産性向上が叫ばれているが、「創造の芽」を育むムダは逆に取り戻すときだ。


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