2025年3月22日(土)

災害大国を生きる

2025年2月15日

被災現場へと突き動かすもの

 9月21日の豪雨災害から約3カ月。町野ではいまだに、傾いた家、一階部分が押しつぶされた家が目立つ。いつになったら、復旧作業が完了するのか、気が遠くなるが、大石さんはこう言った。

 「災害、つまり、地震や洪水ってもともと自然現象の一つですよね。人間に害を及ぼすから、災いになる。でも、昔は土砂崩れが起きると『そこに棚田をつくることができる』と考えた人もいたそうです。自然に抗って生きていくのではなく、人間も自然の一つとして調和していくことが大切だと思います」

 菅さんは、米国のみならず南米やアジア、パレスチナなどにもボランティア活動で訪れている。東日本大震災の前後には、障がい者を支援するためにブータンにも滞在していた。そこで、ブータンの若者たちが「借金して日本に行けば、稼いですぐに返すことができる」と騙されて出国していることを知り、彼らの支援に乗り出した。

 菅さんの話を聞いていると、まさに「人のために生きる人生」と言っても過言ではない。2015年には、菅さんの活動母体となる一般社団法人 Nature & Humans Japanを設立した。

 菅さんは被災地に入ると、2年くらいは滞在するという。

 「シンクロニシティ(ユングが提唱した『意味のある偶然の一致』)があるんだと思います。偶然の一致は、心の深いところで望んでいるから起き、その偶然を生かすこともできます。偶然の一致に導かれて町野に来ました。被災現場を歩いていると、偶然いろんなニーズが聞こえてくるんです」

 物腰が低く、声色も穏やかな菅さん。この人なら話を聞いてくれそうという雰囲気がある。被災地の人々との対話の中で菅さんに情報が集まり、ニーズとシーズのマッチングにつながっているのかもしれない。それにしても、菅さんを突き動かしているものは何なのだろうか。

 「ネイティブアメリカンの『グレート・スピリッツ(大いなる神秘)』や、アミニズム、原始キリスト教、縄文文化などにひかれるところがあります。自分ではなく、神さまのような大きなものに突き動かされているという感じです。今この場所にいて、友と力を合わせ、共に困難に立ち向かいながら生きられて幸せです」

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Wedge 2025年2月号より
災害大国を生きる 積み残された日本の宿題
災害大国を生きる 積み残された日本の宿題

「こういう運命だったと思うしかない」輪島市町野町に住んでいた小池宏さん(70歳)は小誌の取材にこう答えた。1月の地震で自宅は全壊。9月の豪雨災害時は自宅周辺一帯が湖のようになったという。能登半島地震から1年。現地では今もなお、土砂崩れによって山肌が見えたままの箇所があったほか、瓦礫で塞がれた道路や倒壊した家屋も多数残っていた。日本は今年で発災から30年を迎える阪神・淡路大震災や東日本大震災など、これまで幾多の自然災害を経験し、様々な教訓を得てきた。にもかかわらず、被災地では「繰り返される光景」がある。能登の現在地を記録するとともに、本格的な人口減少時代を迎える中、災害大国・日本の震災復興に必要な視点、改善すべき方向性を提示したい。


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