2025年3月28日(金)

教養としての中東情勢

2025年2月18日

 アラブ世界一の富裕国であり、イスラムの守護者を自認するサウジ王族の誇りと気位は高い。中でもムハンマド皇太子は高齢のサルマン国王に代わり、国を動かしているという自負が強い。それが、トランプ提案では、単に「金を出すだけ」の“パシリ”にされたとして、誇りを深く傷つけられたようだ。

一石二鳥の妙手

 中東専門誌「ミドル・イースト・アイ」などによると、サウジ外務省はトランプ大統領が「ガザ所有提案」を公表したわずか45分後に「パレスチナ独立国家の樹立なしにイスラエルとの国交はない」などとする声明を発表し、提案への反対を表明した。声明公表が現地の未明だったことも、サウジの衝撃と怒りの強さを示すものとされる。

 その後も同外務省は「民族浄化を含む犯罪から注意をそらす試みを断固拒否する」とする声明を発表、トランプ提案には直接言及しなかったものの、大統領への不快感を示したのは明白だった。皇太子の怒りに拍車をかけたのがイスラエルのネタニヤフ首相だ。

 首相はトランプ大統領との首脳会談のためワシントンに向かう機中でイスラエルのテレビ局とインタビューし、この3年間、サウジと水面下で接触してきたという極秘情報を漏らした上、「サウジがパレスチナ国家建設にそんなに熱心なら自国領内で樹立すればいい。彼らには広大な土地がある」と述べた。

 皇太子は2020年、紅海沿いに建設中の未来都市ネオムで首相と極秘会談したと伝えられている。この会談はトランプ第1次政権で国務長官だったポンペオ氏がお膳立てしたとされる。しかし皇太子にとっては、形の上ではいまだ「敵国」であるイスラエルの首相と会談したことは秘密にしたかったことだ。それを首相自ら暴露したことに怒りを覚えたことは想像に難くない。

 トランプ大統領にとっては、皇太子は大事な「金づる」であり、画策しているイスラエルとサウジの国交樹立には最も重要な人物。ここで皇太子にへそを曲げられては中東政策が暗礁に乗り上げてしまう。

 「困ったトランプ大統領は皇太子が“世界の調停者”の立場を希求していることに目を付け、皇太子に外交上の花を持たせ、怒りを鎮静化するため、プーチン大統領との米露首脳会談の開催地としてあえてサウジを選んでみせたということだ」(ベイルート筋)。

 皇太子にとってトランプ大統領は恩人だ。皇太子がサウジ記者殺害事件の首謀者として批判され、孤立していた際、国際舞台への復帰を介添えしたのが大統領だったからだ。しかもウクライナ戦争では、ウクライナのゼレンスキー大統領をサウジに招請するなどの外交的実績もある。

 皇太子は、大統領から米露首脳会談の舞台を設定され、“世界の調停者”として国際社会にアピールできることから、怒りを「いったんは封印することにした」というのが真相ではないか。大統領にとっては皇太子を懐柔し、提案に対する説得の機会を得ることにもなり、一石二鳥の妙手だろう。


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