「完全勝利」ではないCDU・CSU
今回の選挙の投票率は82.5%で、1990年のドイツ統一以来最も高かった。前回の2021年の総選挙(76.6%)を5.9ポイント上回る驚異的な数字だ。
今回の選挙の最大の争点は、低成長と不況に苦しむドイツ経済の建て直しと、難民政策だった。高い投票率には、「ドイツを何とかしなくては」という有権者の危機意識が浮き彫りになっている。
市民が現政権へ厳しく罰した開票結果には、政治への不満がはっきり表われている。多くのドイツ市民がショルツ政権の環境保護、特に二酸化炭素の削減を最優先にした政策や、ロシアのウクライナ侵攻以来続く景気停滞、不況対策の遅れ、省庁への報告義務などビューロクラシーの増加、連立与党が政策についてしばしば合意できず、機敏な政策決定ができなかったこと、難民による犯罪の多発に政府が有効な手を打てないでいることなどについて、強い不満を持っている。ドイツでは昨年5月から9カ月間に、難民による市民の無差別殺傷事件が6件起きており、多くの市民が治安の悪化を感じている。
ただしCDU・CSUにとっても今回の選挙結果は、手放しで喜べるものではない。同党への支持率は、昨年11月のアレンスバッハ人口動態研究所の世論調査では37%だった。わずか4カ月で同党への支持率は28.5%に減った。8.5ポイントの著しい減少だ。同党は30%を超える得票率を目指していたが、その目標は達成できなかった。
CDU・CSUの失速の理由は、メルツ氏が難民規制を強化する方針の中で「行き過ぎ」ともとれる措置を発表したからだ。彼は「ドイツでの亡命申請を拒否され、出国を義務付けられている外国人は逮捕して、直ちに収容施設に拘留する」という措置を提案した。メルツ氏は、AfDの票を奪うために、難民政策をAfDの路線に急激に近づけたのだ。
この提案はCDU・CSU支持者の中でリベラルな思想を持つ人々、たとえばメルケル氏の人道的な難民政策を支持していた人々を憤慨させた。昨年11月に比べてCDU・CSUの支持率が低下したことはその表れだ。
逆に極左の左翼党が前回に比べて得票率を3.9ポイント増やして連邦議会に復帰すること、緑の党の得票率の減少率がSPDほど酷くはなく、3.2ポイントに留まったことは、メルツ氏の「右旋回」に対するリベラルな市民の危機感を反映している。
