2025年12月5日(金)

都市vs地方 

2025年3月4日

マドリード郊外のアグリツーリズム

 スペインの首都マドリードから南東に約50キロメートル(㎞)行くと、ビジャレホ・デ・サルバネスという古いまちがある。1203年に建てられた八つの大塔をもつ城、14世紀に建てられたサン・アンドレス教会という城塞、16世紀にできた邸や修道院など重要文化財が多く、これらが地下回廊でつながっている。

古都サルバネスの地下にあるワイン蔵

 今年の1月1日、サルバネスのまちを訪ねる日、老舗のジェロミンというワインの醸造所を見学させてもらうことにした。案内をしてくれた支配人のソニア・マルティネス・ガルシア・フライルさんが「よく1月1日に来ましたね」というから「よく1月1日に受け入れてくれまたね」と応じたら「ワインの醸造は、毎日テイストして室温や湿度を調整するから1日たりと休みはない」と言う。

 ソニアさんら3代目の家族を中心に17人でワイン畑を管理し、栽培から醸造、ワイナリーにおける試飲とペアリング、販売、ホテル経営、レストランなど手広く経営している。城壁都市サルバネスを巡るツアーのガイドもしている。ワインと観光の相乗効果によって一族の収入増加を図る典型的なアグリツーリズムである。

ワインの試飲コーナー

 マドリード郊外一帯に約300カ所、約500ヘクタール(ha)、約60万株のブドウを栽培している。畑が散在している結果、異なる土壌により多様なブドウが採れているという。

 ワインは年間約100万本、タンク容量は400万リットル、オーク樽は800樽を生産するかなり大規模経営だが、ソニアさんは「イノベーションにより新しい製造プロセスを取り入れているが、家族経営の伝統と起源を忘れてはならないと父から繰り返し教えられてきた」と話す。

 古き良き家族経営をしながら大規模化することは、アグリツーリズムなどを活用することで実現できるとマドリード郊外で見せてもらった。日本でも、良き伝統と農民魂を生かしながらできるかもしれない。

日本の体験農園や農家レストラン

 日本でもアグリツーリズムを実践している農家は多い。たとえば東京の白石好孝さんは仲間たちと協力して、練馬区で市民農園を発展させた体験農園を1996年に始めた。

 体験農園は農業者が一般市民にそれぞれ30平方メートル(㎡)程度の農地を1年単位で貸して、資材や種苗を提供し直接市民に栽培法を指導する。農業体験も農地に訪れるという面では、農業観光の一つと言える。区画は100箇所以上あるから、毎年100以上の個人や家族が本業の傍ら農業を体験し、農園のファンになる。体験農園の期間が終わっても農園の自動販売機の野菜を毎日のように売れていくという。


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