2025年12月5日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年3月10日

日本が〝見本〟とすべき国

 食料品等の国際貿易市場は現在、700兆円程度と推測されている。優位な地位を占めているのは、①アメリカ22兆円、②オランダ15兆円、そして、③ブラジル13兆円、④ドイツ12兆円といった諸国であり、日本は足元にも及ばない。国土面積は日本の九州程度、農地面積も日本の4割と、国土の制約が大きいオランダが、穀物自給率16%でありながら、食料品等の輸出分野では世界第2位を占めていることは「農政のあり方」の点でわが国に示唆するところが大きいのではないか。

 その特徴を列挙すれば、土地利用型農業よりは、付加価値の大きい施設型(土地節約型)の品目へ生産・輸出を集中させる、国内トップクラスのワーへニンゲン大学を拠点とした産官学の連携によるイノベーションの推進、生産から販売までのサプライチェーンを構築し関係機関を集積させるクラスターを整備する等である。

 日本が海外から需要が強い加工品について、「原料を輸入品から国産品に」移行させていくにあたっては、オランダが行っているように、①輸入品の再輸出、②国内で生産された農産物を原料とする加工品、③輸入した原材料に国内で加工を施した上で輸出される加工品と、タイプを分類して数量、金額、課題などを数値的にしっかり把握した上で臨まなければならない。

土地活用と効率化

 実は、「国産原料を加工した製品の輸出」は国土・農地の制約から、極めて難しいと言わざるを得ない。しかも、日本は農業政策によって、この半世紀ほどで約4割も農地を減少させており、耕地利用率も低いままという現実がある。先進諸国が農地の維持・拡大をしてきているのとは逆を行ってしまっているのだ。

 その原因の多くは、半世紀以上も続いている「実質的な減反」=「コメの生産調整」にある。この点については、かねてから石破茂首相が主張していた「農政転換の方向」そのものである。政府は、「2027年から水田政策を抜本的に見直し、畑地を含めて農地をフルに活用できるよう体制を整える」と表明している。成果に期待したい。

 農地を維持すること、すなわち、地域社会を維持・発展させるための政策の裏打ちがなければ国産原料による輸出は「実現できない夢」に終わってしまう。

 さらに、ただ「農地をフル活用」するだけでなく、生産性を高めコストを削減する努力・政策支援も大事である。国際市場のベースになるのは、あくまでも「価格競争」となる。

 この点では、日本の産品は条件が非常に不利である。それは、最近のコメの流通を見ても明らかだ。かつて、タイ米のような長粒種と中粒、短粒種(ジャポニカ)とは市場が違い、ジャポニカには限界があるとの思い込みもあったが、いまや、米国西海岸、豪州、ベトナム、中国、台湾は、環太平洋市場として、同一化しながら拡大してきている。

 そんな中、コメの輸出どころか、高い関税を支払ってでも台湾米、カリフォルニア米(カルローズ)が輸入され、将来は中国とも価格面で厳しい競争になるだろう。「高くても品質が良ければ」とは、すでに幻想であり、価格、品質、サービス、食文化などあらゆる点で頭を切り替えなければならない。

 その観点から見ても、我が国の農政は世界の潮流に乗っていない。世界の農政は、欧州連合(EU)でもアメリカでも、「価格は(国際)市場の競争にゆだね、経営(の継続)は直接支払い=所得補償で」との方向にあり、EUでは農業者の所得の9割が補助によるという研究もある。


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