2025年3月15日(土)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年3月14日

 今回ポルシェ社は、経費削減の方向性を打ち出した。同社は、「29年までにドイツを中心に従業員数を1900人減らす」と発表した。その際の方法は解雇ではなく、退職勧奨制度などを利用する。さらに、期限付きの雇用契約書を持っている一部の社員についても、契約打ち切りによって、就業者数を約2000人減らすと発表した。合計3900人の削減だ。

 これは、ポルシェの従業員数4万2615人の9.2%にあたる。これらの決定は、経営陣の間で「人件費を減らして収益性を高める必要がある」という意見が強まっていることの表れだ。

中国での販売台数が激減

 営業利益率が悪化した主な原因は、新型モデル開発に伴う費用の増大と販売台数(vehicle sales)の減少だ。同社は23年に全世界で33万3605台の車を売ったが、24年には販売台数が約2万台減って31万2620台となった(6.3%の減少)。

 一方実際に顧客に届けられた車の台数を示すdeliveriesの台数も、23年の32万221台から24年には31万718台に2.9%減った。

 最大の理由は、過去において最も重要な市場の一つだった中国(香港を含む)での24年の販売台数が、前年比で32.7%も減り、5万3421台になったことだ(deliveriesの台数も28.2%の減少)。

 実はポルシェの中国での販売台数は23年にも減っていた(約15%の減少)。同社は24年も中国事業の悪化にブレーキをかけられなかったのだ。

 業績報告書からは、ポルシェにとって中国事業の不振が突出していることが浮かび上がってくる。ポルシェは、24年に世界の5つの主要市場(北米、ドイツ、ドイツを除く欧州、新興国、中国)の内、3つの主要市場(ドイツ、ドイツ以外の欧州、新興国)でそれぞれ販売台数を増やすことができた。北米での販売台数の減少率は1.1%に留まった。24年に販売台数が3分の1も減ったのは中国だけだ。

 24年のポルシェの全世界の売上額の内、中国が占める比率は15.7%だった。ドイツの13%をも上回る。つまり中国は、単独国としては世界で最も重要な市場の一つだ。それだけにこのマーケットでの売れ行き不振は、ポルシェ全体の業績に悪影響を及ぼす。

中国部門CEOを更迭

 なぜポルシェの車の売れ行きは、中国で伸び悩んでいるのだろうか? 一つの理由は、中国経済の不振だ。コロナ禍以降、不動産不況や若年失業者の増加などにより経済成長率が鈍化し、富裕層も含めて欧州の高級スポーツカーを買う市民の数が減っているからだ。ポルシェは24年10月に、「中国での高級スポーツカーへの需要が減っていることから、同国での販売店網を整理、効率化する」と発表していた。

 ポルシェのブルーメCEOは、24年7月、中国事業の現地責任者ミヒャエル・キルシュ中国・香港部門CEOを更迭し、ドイツ部門のCEOだったアレクサンダー・ポリヒ氏を後任に選んだ。ポルシェ本社は、「キルシュ氏が中国での市場環境の変化に対応するのが遅れた」と判断した模様だ。

 中国でのポルシェの販売店関係者からも、キルシュ氏に対する不満の声が強まっていた。ポリヒ氏は、自動車マーケティングのプロと言われており、ポルシェの中国の販売店網の実績を引き上げる任務を与えられたものとみられている。


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