介護民俗学、ネットロア、ミーム
本書の後半には、「これからの民俗学」として3つの研究領域が紹介されている。
一つは介護民俗学。認知症の対策として高齢者の記憶を喚起する回想法があるが、高齢者からの聞き書きこそ民俗学の王道だった。
次いでネットロア(ネットの世間話)。SNSやネット掲示板の噂話、怪談、都市伝説、ジョーク、いい話などは、現代社会に潜在する不安や願望の反映であり現代民俗学の対象。
そしてミーム(社会遺伝子)。掃除ロボットの上に乗った猫、など笑いを誘うために作られたデジタルコンテンツで、現代社会の民間伝承の最たるもの、と見做されている。
「まず介護民俗学です。昔は祖父母や両親が子や孫に自分の人生を含めいろんな話を聞かせ伝えました。若者宿でも若者は先輩から人生の知恵を授けられた。でも現代は、そんな機会がない。何も語らぬまま亡くなる人が圧倒的多数。だから民俗学徒が聞き役、伝え役をやるわけです。介護の場であろうとなかろうと、人々の人生の話を聞き続けます」
「ネットの世界、例えばニコニコ生放送などでは、ネットスラング、ある種方言のような言葉が日々生み出されています。この間、九州では今も祖父、父、息子と男から先に風呂に入るという男尊女卑のエピソードが出ていて、“さす九”という言葉が生まれました。さすが九州、の短縮語ですね。こういうことは、政治・経済優先社会ではどうでもいい話題ですが、それこそが現代民俗学の対象そのもの。どんなネットスラングに、どんな人々がどのような共感を寄せるか、それはいつまで続くか。そんな俗っぽいコミュニケーションに、私たち民俗学徒は強い関心を寄せ続けるわけです」
67ある「不思議」の項目のどれを振っても、島村さんはたちどころに受け止め、情熱を込めて語り出す。しかも、どんどん膨らみ、どの細部も興味深い。まとめの行数を調節するのに困難を感じるほどだ。民俗学が身近な「みんなの学問」だということを、島村さんの話しぶりからも感じることができた。