2025年5月22日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年4月2日

 さておき、結果的に中国国内ではこの発言が「沖縄工作のゴーサイン」であると解釈され、学会、メディア、ネット工作部隊、外交部、党統一戦線工作部の影響下にある華人団体などが一斉に対沖縄アプローチを強化しはじめました。

 その結果、23年後半から中国の対沖縄工作は一気にエスカレートします。すなわち①中国の歴史学者や国際政治学者が「沖縄の帰属問題」について積極的な議論を開始、②中国のショート動画サイトで「琉球独立」「沖縄の中国復帰」を主張する動画が急増、③中国の外交関係者や要人の訪沖回数が異常なペースで増加、④“民間”の在沖華人団体による沖縄県庁や沖縄地方議員らに対するパイプづくりの活発化……、などが挙げられるでしょう。

沖縄県内での〝変化〟

──対して沖縄県側の反応は?

 まず県庁について。玉城デニー知事が「地域外交」に積極的な姿勢を示していることから、中国側のアプローチを積極的に受け入れていく方針であるように見えます。

 もともと、沖縄県は数代前の知事の時代から、知事など県首脳部の台湾訪問の際には事前に東京の大使館にお伺いを立てる通例があるのですが、現知事になってから従来の枠組みを超えてその影響を受けているとは感じます。

 実際に『週刊現代』記事で知事ご本人に取材した際も、台湾問題については「(台湾と中国が同じ国であるとする)ひとつの中国の原則を“踏襲”」と話しておられました。ちなみに、日本政府の「ひとつの中国」に対する見解は、1972年の日中共同声明で示された「(中国が台湾を領土だと主張することを)十分理解し、尊重」。つまり、「そっちがそう言っているのはわかる」という立場ですから、玉城知事の認識は日本政府の公式見解を踏み越えた「中国寄り」のものと判断していいでしょう。

 もちろん、玉城知事は中国問題の専門家ではありませんし、沖縄県庁にしても(滋賀県や群馬県と同じような)「普通の県庁」ですので、中国政府見解に積極的に同調して知事に具申するような職員がいるとは考えにくい。外部からのなんらかのインプットがなされたと考えるのが自然です。

──中国側の工作は、見事に効果を挙げているということですか。

 実はアプローチは活発なのですが、必ずしもそうとはいえない部分もあります。たとえば沖縄県庁の場合、すでに述べたように彼らは「県庁」でして、外交がわかっているわけではありません。

呉江浩駐日大使がたびたび沖縄へ訪れるも、沖縄県が影響を受けているわけではなさそうだ(つのだよしお/アフロ)

 なので、呉江浩大使や福建省の周祖翼書記の訪沖時も、実は玉城知事は夜の歓迎レセプションをともに欠席。しかも、周祖翼書記のレセプション欠席の理由は「フジロックフェスティバルに出演するため」でした。つまり、工作は確かに受けていて思考も影響を受けているが、相手側がどれだけ偉い人か、また外交プロトコールがいかなるものかは理解していないということになります。

 事実、これらの裏方で動いた沖縄の華人筋に話を聞きますと「メンツを潰された」「失礼だ」といった声も多く聞かれます。中国側としては、工作がうまくいっている実感はまったくないでしょう。玉城知事の思惑(実際はたぶんないような気がしますが)を裏読みして、逆に付け入りがたしと考えていてもおかしくありません。


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