2025年5月20日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年4月2日

──中国側はシステマティックにしたたかな工作を進めている印象がありますが。

 こちらについても、実は日本人の先入観によるところが大きい。中国側の対沖縄工作の実態を注意深く見ると、彼らがまったく一枚岩ではないことがわかります。

 たとえば、公的な外交機関(中国大使館や総領事館)や党統一戦線工作部(統戦部)系の在沖華人団体が行っているアプローチと、中国側で「琉球独立」を煽るネット上のプロパガンダ工作や学界の活発な発言とが、それぞれ連携が取れているとは思えません。

 玉城知事や与党のオール沖縄、もしくは沖縄県庁といった存在は、たとえ「沖縄アイデンティティが強い」としても、別に琉球独立に賛同しているわけではありません(むしろ賛同しがたい立場でしょう)。沖縄の民意においても、琉球独立に賛成する人は数%程度。多くの人たちが望んでいるのはせいぜい、日本やアメリカに翻弄されがちな沖縄県民がもっと自己決定権を持つようになりたい、といったところです。

 そうしたなかで、「仲良くしましょう」と主張する中国要人の訪問と並行して、ネットで「琉球独立」「沖縄は祖国(中国)に復帰したがっている」といった過激なプロパガンダを行うのは完全に悪手でしょう。統一的な意思決定のもとで工作がなされているとは思えません。

 中国側の学界筋からは「いまはとにかく『琉球』を冠すれば研究費が出る」といった声も聞かれます。23年6月の「習近平琉球発言」にあちこちの部門が反応して、相互の連携なく「忖度ムーブ」「手柄合戦」を繰り広げているというのが妥当な想像ではないでしょうか。

──中国側のネット工作はどの程度の影響力を持っていますか?

 中国発の工作動画や、それに便乗したらしき個人動画は数多いものの、質の面で見ると影響力には限界があると考えられます。そもそも多くは中国語で、沖縄県内の世論に声を伝える気があるようにも思えません(英語で発信されているものは警戒が必要ですが)。

 24年のアメリカ大統領選でも、中国発の政治工作動画が確認されましたが、これらの多くは低クオリティで、「質」よりも「数」を重視するノルマのもとで作られている可能性が指摘されています。これは中国あるあるの話です。

 そもそもの動機が「忖度」「手柄合戦」だとすれば、彼らの上の人が読めない高クオリティな日本語動画を10本作るより、中国語の「ゴミ動画」を1000本作るほうが、褒めてもらえるインセンティブが多いですから。

 こういう事情は対沖縄工作動画も同様でしょう。沖縄の現地の人々にどう受け取られるかは考慮されておらず、それどころか外交部など他の部署の方針とすら乖離してしまっています。工作の効果は限定的だとみられます。

「アガらない麻雀」でも警戒は必要

──結局のところ、中国の対沖縄工作はどの程度の脅威なのでしょうか?

 中国が沖縄に対して影響力を強めようとしているのは間違いありません。しかし、手法は粗放で一貫した戦略もないため、効果は限定的。一方、沖縄県側は外交ラインや在沖華人ラインの攻勢を(すくなくとも私が見る限り)ノーガードで受け続けているものの、現知事や県庁のそもそもの外交リテラシーが低すぎることで、中国側は効果を挙げられないでいます。

 いわば、現状は「一人をカモにするつもりで打っているのに全員が下手すぎて誰も「和了」(アガリ)できず、延々と局を重ねる麻雀」のような状態と言っていいでしょう。

 ただし、今後も中国が対沖縄アプローチを続ける可能性は高く、日本全体の安全保障にとっては無視できない問題です。また、現状の「アガらない麻雀」は、中国の戦略性の欠如によって支えられていますので、中国側のプレーヤーたちがまともに「コンビ打ち」(連携)しただけで、結果はまったく異なるものになってしまいます。現状は薄氷の上にあると言っていいでしょう。

 現状を過度に恐れる必要はないものの、引き続き警戒を怠るべきではありません。

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