しかし、重要な防衛産業を抱える英国を排除することは問題であり、EUの安全保障・防衛の利益にも反することになろう。白書は英国が枢要な同盟国であることを強調し、安全保障・防衛パートナーシップの関係となることに期待を表明している。漁業権や移民の問題とは切り離して、早急に実現されるべきであろう。
米国との関係が急速に悪化したカナダもEU・英国と緊密な関係を構築することに舵を切っている。カナダも有力な安全保障・防衛パートナーシップの相手国となり得よう。
米国製兵器をどう扱うべきか
「SAFE」が提供する1500億ユーロの融資は重要であるに違いない。この制度が想定する「共通調達」という手法はなかなか理解しにくいが、防衛産業の基盤強化を後押しするために調達をまとめてその規模を拡大する趣旨かと思われる。しかし、複雑である。その複雑さを克服するに足る魅力が1500億ユーロにあるかが問われるように思われる。
最後に、米国について付言すれば、米国製兵器に頼ることの是非との関連でこの記事が言及している問題が指摘されている。すなわち、米国製先端兵器の刷新、維持管理、あるいは使用方法などをコントロールする権限が米国にある場合、あるいは実際問題として米国の助力を必要とする場合、ロシアの侵略に対抗してこれら兵器を自由に使えるのか、トランプが邪魔立てをするのではないかとの恐怖が、トランプ政権の信頼性が失墜し、ウクライナ戦争の教訓に学ぶに伴い(特に、トランプ政権がウクライナに対する兵器・情報の支援を一時停止したことは衝撃的であった)、欧州では浸透したようである。
カナダとポルトガルではF-35戦闘機の将来の発注を見直す動きすら生じている。もとより、米国製兵器を俄かに代替し得る訳ではない。しかし、米国製兵器の買い増しというトランプ政権を懐柔するための同盟国の常套手段に一考を要する問題が浮上していることは確かなようである。
