急性中耳炎で抗菌薬を使う場合
急性中耳炎に話を戻そう。この急性疾患のマネジメントでは、痛みを和らげることと、抗菌薬を使用する場合を適切に判断することが重要である。
日本では、急性中耳炎と診断されれば、ほとんどの場合その当日に抗菌薬が処方され服用されるだろう。しかし、それが不必要な過剰医療になっている場合や、抗菌薬の副作用などの害につながる可能性があることも、きちんと評価しなければならない。抗菌薬を処方しないという判断の方が、ケアの質の高さを示す場合もあることを知ってほしい。
臨床研究のエビデンスに基づいて、小児の急性中耳炎で抗菌薬の使用が推奨されるのは、通常、生後6カ月未満の乳児、生後6~24カ月でも両側の急性中耳炎の場合、基礎疾患による合併症のリスクが高い小児、強い耳痛が48時間以上続く場合、39度以上の発熱がある場合、などに限られる。その他の小児では抗菌薬は処方せず、経口鎮痛薬(アセトアミノフェンやイブプロフェン)を使用しつつ発症後48~72時間に症状の悪化がないか、注意して経過観察することが推奨されている。
急性中耳炎のセルフケア
英国の国民保健サービス(NHS)の市民向け健康情報提供ウェブサイト『Health A to Z』には耳の感染症(Ear infections)の項目があり、そこでは、セルフケアについてのアドバイスが充実している。
まず、「耳の感染症はとてもよくあることで、特に子供でよく見られます。耳の感染症は3日以内に自然に治ることが多いため、必ずしもいつも家庭医に診てもらう必要はありません」と書かれている。これは、「家庭医が必要とされていない」ということではなくて、家庭医には通常のセルフケアで改善しない場合の対応、反復する急性中耳炎や滲出性中耳炎になった場合の対応など、別の役割があるということである。
このウェブサイトには、どんな場合に耳の感染症があると考えられるか、通常は3日以内に治っていくがその間にセルフケアとしてすべきこと(Do)と、すべきでないこと(Don't)は何かのリストがある。
すべきことの例としては、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの鎮痛剤を使用すること(16歳未満の子供ではアスピリンは服用しない)、耳を脱脂綿で拭いて分泌物を取り除くこと。
すべきでないことの例としては、耳垢を取り除くために綿棒や指などを耳の中に入れないこと、水やシャンプーが耳の中に入らないようにすること、耳の感染症があるときは泳がないこと、うっ血緩和薬や抗ヒスタミン薬を使用しないこと(これらが耳の感染症に効果があるというエビデンスはない)、などが書かれている。
そして、1歳〜17歳までであれば薬剤師が適切なケアを提供できるので相談することを勧めている。
さらに、ただちに家庭医を受診すべき場合、家庭医で行われる処置や治療の概要、そして、小児に必要なすべての予防接種を済ませておくこと、子供をタバコのある環境から遠ざけること、生後6カ月を過ぎたらおしゃぶりは使用しないこと、などを含む、家庭でできる耳の感染症予防のアドバイスも書かれている。
このように、症状に応じて、それぞれのレベルで、患者・家族が多職種保健専門職と役割分担をしていく。個々のセルフケアが医療資源の適正利用につながるので、住民の参加が地域全体の健康を支えているとも言える。
なお、日本ではセルフケアと似せて「セルフメディケーション」という言葉が使われることがある。これは、処方箋なしで購入できる市販薬(薬局のカウンター越しに [over the counter] 購入するので「OTC医薬品」と呼ばれる)の使用を推奨することで、セルフケアの一部の場合もあるが、不適切な使用での副作用や害のリスク増も見逃せない。上記のよう、セルフケアには他にも重要な事項が含まれることをわかってほしい。
C.B.ちゃんの急性中耳炎は鎮痛薬内服2日目で良くなり、また元気な子に戻った。フォローアップの診察にC.B.ちゃんを連れて来た母親のM.B.さんも嬉しそうだ。ついついこちらも嬉しくなる。
「それは良かった。ところでこの前お店の新作のお菓子を食べたんですけど、あれ美味しいですね」
「それはありがとうございます。季節限定だったんですけどよく見つけて下さいました」
「妻からは甘いものの食べ過ぎ注意!って言われてて耳が痛いんですけどね」
「あら、先生も急性中耳炎ですか(笑)」
