実際的な課題とは、まず防衛分野をどのように定義するかである。防衛装備分野には物品だけでなく多くの取引領域が含まれ複雑だ。他方、各国は既に防衛分野を特別扱いし、その特別理解の上に共通市場を構築できる可能性がある。
もう一つの課題は、国境での摩擦を如何に解消するかだ。それには北アイルランドの解決策が参考になる。例えば、防衛装備分野の請負業者から事前認証された貨物には、特別な輸送レーンを利用できるようにするという方策が考えられる。
EU の「4つの自由の不可分性」という原則では、EU との障壁のない経済取引はall or nothingということになる。しかしこの原則は実際には形式主義のところがあり、欧州経済地域(EEA)は農業と魚を除外している。よって、英国とEU諸国が意見の一致を見出すことは可能だろう。
欧州の安全保障という共通の目標の下、英国の欧州懐疑論者も大陸の英国批判論者も、欧州全域にわたる障壁のない防衛装備の供給網の重要性を理解すべきである。さらに重要なことは、その共通市場が長年かけて創り上げる大きな信頼と団結であろう。
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防衛予算増加だけでは解決されない
防衛力強化は、単に防衛予算を増加させればよいというだけではなく、防衛産業の強化を伴うものでなければならない。予算増による装備の強化は、自国の領域に防衛装備を生産する技術者を育成し、設備などの生産能力を強化し、産業を全体的に育成するということである。単に何処かの国から防衛設備を購入すればよいという安易な方策に頼るだけでは防衛力の強化にはならない。
この論説の著者は、安全保障に比べれば通商上の各国の固有の政策(Brexitを含む)が優先順位において劣位に置かれるべきだとし、欧州の安全保障のためにEUとその周辺諸国(英国を含む)は各々の他の諸政策にかかわらず、欧州の防衛のために一体的な取引が可能となるよう、部品供給網を含むネットワークをシームレスにすべきであると主張している。
