2025年6月16日(月)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年4月21日

 また、敵対的姿勢を崩さない中国はもとより、カナダや欧州なども米国批判を躊躇していない。以前のホワイトハウスでの首脳会談では、立場が一番弱いとトランプが考えるウクライナですら「口答え」するなか、トランプは、前回の石破茂首相との会談などを通して、日本は自分に恥をかかせることはないと感じ取ったのではないだろうか。

 日本政府のトランプ政権に対する厚遇ぶりは、性的暴行疑惑などで米国内のみならず欧州でも白眼視されているヘグセス国防長官が硫黄島を訪れた時に石破首相が、首相はこんな笑顔をみせることもあるのだと驚くほどの笑顔で挨拶したことに象徴されている。

トランプの記憶に残る日本の姿

 今回の厚遇には、トランプ大統領の日本観も無関係ではないだろう。彼の頭の中は、日本がもっと強く、米国の地所や企業を買い漁っていたバブル期のままなのではないかと思わせる発言を時々することがある。当時米国の大勢がそうであったように、いまだに日本を米国の安全を脅かすのに十分な存在とみているのである。

 トランプがトランプタワーの建設やプラザホテルの買収など、野心的なプロジェクトを次々手掛け「時代の寵児」と言われたのは、ちょうど日本が経済力を急速に伸ばした1980年代であった。山手線の内側の地価だけで米国全体が買えるという試算が出るなどした当時、トランプも自らが手掛けた高額不動産に買い手として多くの日本人や日本企業が殺到し、気前よく現金で買っていくのを目撃していた。

 当時、雑誌のインタビューで、一人の日本人が自分の手掛ける物件の一つである高級マンションを7戸も買い、ぶち抜いて1戸にしてしまったというエピソードを印象深く語っている。

 人は自分がもっとも活躍していた時期の記憶を引きずりがちである。トランプも自らが不動産業界のライジングスターとして注目を集めたころの感覚をひきずっており、それが発言の端々から見えている。

 ただ今回、彼のこのような一見時代錯誤的感覚が功を奏したといえるかもしれない。日本を実際以上に重要視してくれて、それが先日の関税交渉での好待遇へとつながっていると考えられるからである。

今後どうするべきか

 とはいえ、今回の交渉で出された課題は厳しいものである。目に見える形で対日貿易赤字の解消を実現するのは大変である。なかでも米国製自動車の輸入増加は難題である。

 日本はそういった場合、「自主的行動を強制する」という自主規制で乗り切ろうとする傾向にある。それこそ公用車をできるだけ米国車にするとか、裾野が広いと言われる自動車関連企業の関係者はみな米国車をなるべく買うようにという見えない圧力が生じるかもしれない。

 とにかく、トランプ政権が求めているのは、わかりやすい「手柄」であり、今回は、中国が手懐けたいはずの日本が、いの一番にホワイトハウスに飛んできたことを見せつけることそれ自体に意味があった。その上で、大統領自らが厚遇することで恩を売り、わかっているだろうなと目配せしたのが今回の会談の米側の意図だったのではないだろうか。

 日本としては、トランプ的価値観の中でのやり取りのキャッチボールの球を落とさないよう心掛けつつ、外的な状況の大きな変化が起きるのを待つしかないのかもしれない。

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