その人の本名は、池口小太郎という。1935年、大阪市に生まれた。
東京大学卒業後、60年に通商産業省(当時)に入省し、75年に石油輸入がストップした際の影響を描いたシミュレーション小説『油断!』(日本経済新聞社)を、翌76年には戦後生まれのベビーブーム世代の未来を予測した『団塊の世代』(講談社)という経済小説を出版した。
ベストセラー作家・堺屋太一のことである。
堺屋は70年の「日本万国博覧会」(70年万博)実現の功労者だが、開幕前年にその仕事から外されていたことが語られることは少ない。
芥川賞作家・三田誠広氏の『堺屋太一の青春と70年万博』(出版文化社)によると、69年4月、堺屋は鉱物資源を調査する同省・鉱山石炭局鉱政課に配属となり、課長補佐(資料班長)になった。
だが、堺屋は決して腐らず、むしろ、この経験を生かした。
鉱物のカタマリはノジュールと呼び、「団塊」という訳語があてられる。例えば、「マンガン団塊」などだ。堺屋が70年万博の開催に向けて奔走していた頃、終戦直後のベビーブームで生まれた世代が巨大な人間のカタマリになっていることを知った。そして、「団塊」という言葉を知っていた堺屋は、その世代を「団塊」と表現し、小説へとつなげてゆく。