また、堺屋は万博開幕前の67年、池口小太郎名で『日本の地域構造―地域開発と楕円構造の再建―』(東洋経済新報社)という本を出版している。
堺屋が入省した60年当時は東京五輪開催に向けて、高速道路や地下鉄など、様々なインフラ整備がなされ、経済の「東京一極集中」が加速していた。
『日本の地域構造』について、前出の三田氏は著書の中で「楕円は円と違って、二つの中心を持つ。つまり戦前のように、東京と大阪という、二つの対等な経済圏をもつ必要があるということを述べた本」だと記している。
『日本の地域構造』で
堺屋が伝えたかったこと
『日本の地域構造』には何が書かれているのか。3点に絞って紹介したい。
1点目は、近畿中部と南関東は、恵まれた自然条件があり、「天賦の首都適地」であるということ。2点目は、東西に二つの、しかも、ある程度性格の異なった焦点が、経済と文化の間で相互に刺激し合って、日本に大きな効果をもたらしてきたこと。3点目は、東京一極集中が著しくなっており、その意味で、日本本来の姿である楕円構造の回復こそ望まれるということだ。
堺屋は大阪・関西経済の地盤沈下への危機感も強く、70年万博が大阪で開催される意義をこう強調している。
「万国博覧会に関しては、オリンピックなどと比較にならない大きな効果が世代を越えて生きつづけている」「東京以外の都市で、万国博覧会という真に国際的な大行事が行なわれることは、第二の国際都市を日本につくり、海外とのもう一つの窓口を設ける」「日本が、アジアが、はじめてもつ万国博覧会は、今世紀最大の地域構造の転機を与えることになるかもしれない。この意味で、大阪にとっては、まさに『大阪築城以来』の大行事である」─。
ものすごい期待感である。
だが、当時とは異なり、日本は今後、本格的な人口減少社会を迎える。過度な東京一極集中を防ぎながら、日本の国土をどう生かしていくべきか。
都市政策などに詳しい日本大学教授・中川雅之さん(63歳)はこう話す。
「東京の生活、経済、文化=日本の全てではなく、大阪のように全く異なる都市の存在は日本にとって必要不可欠です。一方で、『札仙広福:札幌・仙台・広島・福岡』のように、東京や大阪以外の地方でも大都市化が進む中、国はこれまで以上にそれぞれの地域の特性や多様性を意識して国土構造を考えていくべきでしょう」
21世紀においても、堺屋が示した二つの焦点を持つ「日本の地域構造」を最大限活用しながら国土を維持・発展させていくことが求められている。
