2025年5月13日(火)

World Energy Watch

2025年5月9日

 サウジアラビアが増産を容認した背景には、米国の増産方針や中国での燃料需要の先行き不安などを考慮し、油価の維持よりも、石油市場でのシェア確保を優先し始めたことがある。実際、米通信社「ブルームバーグ」によれば、サウジアラビア国営のサウジアラムコ社が5月よりアジア向け原油販売価格を大幅に引き下げるなど、価格よりも販路の維持に努めている側面が見られる。

 しかしOPECプラス8カ国の自主減産縮小に、トランプ政権による相互関税の導入による景気後退の懸念も相まって、原油価格が大きく下落している。北海ブレント原油価格が4月2日の1バレル当たり74ドルから、5月4日には59ドルまで落ち込んだ。

 原油価格の下落はサウジアラビアにとって、5月中旬に訪問を予定するトランプ大統領の要望に応えた形になる。しかし、資源収入の減少に伴う財政赤字を補填するために、サウジアラビアはこれまで蓄積してきた石油収入の余剰資金を大きく取り崩す必要性が出てくる。

経済多角化に向けた経済改革計画

 油価の変動に脆弱な経済構造を是正するため、サウジアラビアは経済多角化の実現を急いでいる。ムハンマド皇太子が主導する経済改革計画「ビジョン2030」は石油依存度の縮小を推進し、医療や教育、インフラ、レクリエーション、観光などの分野の発展を目的としている。

 「ビジョン2030」は3つの戦略的な柱である、「活気ある社会」・「繁栄する経済」・「野心的な国家」に基づいて構築されている。同計画には、特定の政府部門の民営化や女性の活躍促進、国際観光の開放、文化・エンターテインメント事業の展開といった大規模な改革も含まれている。

 24年末までの進捗状況に関する年次報告書によれば、1502件の取り組みのうち、674件がすでに完了した。観光分野では、30年までに1億人の観光客を達成する目標の実現が見込まれる。24年にサウジアラビアを訪問した巡礼者も年間目標の1130万人を大幅に上回る過去最多の1692万人を記録した。

 それでも、大規模なインフラ開発については、財政上の制約を理由に実現できるかは不透明となりつつある。ブルームバーグは24年4月、サウジアラビアが北西部タブーク州の砂漠に建設中のグリーンメガシティ事業「NEOM」の規模を縮小したと報じた。同プロジェクトでの未来都市計画「The Line」で、当初150万人の居住者を計画していたが、約30万人に縮小される見通しである。

 原油安に加え、対サウジアラビアへの外国直接投資額(FDI)の減少もプロジェクトの進展を遅らせる要因である。FDIの流入額は21年に3250億ドルを記録した後、3年連続で減少し、24年は2070億ドルにとどまった。

 石油収入や海外からの投資が伸び悩む中、サウジアラビアとしては、文化・エンターテインメント産業を発展させることで、国内消費や外国人観光客の誘致を増やし、経済の活性化を図る方法に活路を見出している。

周辺諸国との国際イベントの誘致競争

 サウジアラビアが経済多角化の一環として観光業や文化・エンターテインメント産業の育成に注力する中、周辺の湾岸諸国はサウジアラビアに先行する形で、国際イベントの誘致に成功し、自国のブランド認知度を世界的に高めてきた。

 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで21年にドバイ万博が開催され、2410万人以上が来場。跡地であるエキスポシティ・ドバイ(Expo City Dubai)では、23年に第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)も行われた。議長国のUAEは産油国でありながら、世界的な脱炭素政策を牽引する役割も果たすことで、クリーンエネルギー分野で存在感を示した。


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