全国に広がる「支給漏れ」
判決の影響は、名古屋市だけに留まらない。
佐賀市では、名古屋の判決を受けて市議会議員が追及したところ、60代の男性が身体障害者手帳を持っていたにもかかわらず、障害者加算の支給漏れがあったことが発覚した。市は支給漏れの部分を追及することを決めたが、他にも15件ほど加算漏れの可能性のあるケースが見つかった(佐賀新聞「支給漏れ分、全期間さかのぼって支給へ 佐賀市の生活保護費・障害者加算漏れ問題 他にも15件ほど漏れの可能性」)。
堺市では、重度の障害者がいる場合の加算認定について、17年にわたって本来の額よりも少なく支給していた。その総額はおよそ625万円にのぼる。堺市で独自調査を行ったところ、他にも52世帯に同様の加算漏れがあることが判明した(NHK「生活保護費を17年過少に支給で謝罪 大阪堺市」)。
堺市の事例では、代理人の行政書士がついて、行政不服申し立てをしている。今後の動向次第では、弁護団が結成され、取消訴訟や国家賠償請求に発展するだろう。
これらは名古屋市、佐賀市、堺市に特有のものとは考えにくい。問題が発覚したのは氷山の一角で、厚労省がいう「職員による事務け怠等の不祥事」は、今後、全国に波及していく可能性がある。
役所に厳しい「調査義務違反>申請主義」
「調査義務違反>申請主義」という原則は、役所には厳しいものがある。とりわけ生活保護制度においては、「担当者が調べれば簡単にわかる」が、申請主義をいいことに生活保護費を支給していないものが無数にある。
たとえば、病院に通うための公共交通機関を利用した場合、交通費は別途支給となる。いつ、どの病院に通ったのかは、当然役所は把握している。
70代の女性が10キロメートル離れた病院に定期通院している事例を想定してみよう。「公共交通機関を使用している」と考えるのが普通だろう。しかし、現状は女性から通院交通費の申請がなければ、役所は交通費を支給していない。
中学生になれば、サッカー部や野球部、吹奏楽部など、お金がかかる部活動に入部する子どもも少なくないだろう。生活保護では、サッカーボール、グローブやバット、クラリネットやフルートの購入費は、クラブ活動費として別途支給される。生活保護利用者には定期的な家庭訪問が行われているから、「ところで、中学生の息子さんはクラブ活動をしていますか」と聞くことは難しくない。というよりも、訪問調査の“基本中の基本”である。
裁判で争われた「加算」と呼ばれる保護費(最低生活費の一部)、「一時扶助」と呼ばれる臨時的費用の支出項目は、生活保護制度では多岐にわたる。今までは、「本人が申請しないから」という説明ですんでいたものが、調査義務違反という言葉で通用しなくなった。
これまでは、「生活保護の利用は権利なのだから、きちんと調べて支給するのが当たり前」と考える福祉事務所がある一方で、「言われるまでは黙っておこう」という姿勢の福祉事務所も少なからずあった。厚労省はこうした実態を把握していたにもかかわらず、これまでは積極的な働きかけはしてこなかった。
「権利侵害の防止」を第一に掲げ、都道府県や指定都市の責任を強調するのは、今までの事なかれ主義では、国の姿勢が問われかねないという危機感の表れでもある。
