東京オリンピックの波及効果を振り返る
経済分析に有用な産業連関表であるが、現実の経済の様々な産業分野の結びつきを既存の統計から積み上げて作成されるため、大規模な産業連関表は数年に1度のベースでしか作成されない。
今回は利用可能な最近時点の15年の産業連関表と個人の消費行動を調査した22年の「家計調査」に基づいて分析されており、万博のための1円の支出が、巡りめぐって何倍の生産を誘発するかという波及効果倍率は2.34倍であるという結果を得ている。波及効果の倍率は前回の試算では11年の産業連関表が用いられており、その際には波及効果倍率2.59倍あると期待されていた。すなわち、当初の目論見より実は1割程度効果が低くなった中での開催であったことが分かる。また当初の1850億円から500億円の増加の主要な部分が物価高騰によるものであったため、金額の水膨れの側面も否めない。
大阪万博による公共事業の経済波及効果が本当に2倍以上あるかどうかについては議論の分かれるところである。しかし、産業連関表を用いた経済波及効果の解釈には気を付けなければならない面もある。
例えば、どのような建設事業であっても必ず費用分の工事発注が行われるので、その分の需要に応じた生産が発生し、雇用が生まれる。このため、計算上では発注費用を下回る最終効果となることはない。逆に発注費用が大きければ大きいほど、見た目での最終的な波及金額は大きくなる。
国家プロジェクトと経済効果と言えば、最近では東京オリンピックが思い起こされる。東京都推計によれば、東京オリンピックの経済効果は直接効果で約2兆円弱、13年から大会が終了した10年後の30年までの18年間での経済効果は約32兆円とされている。これには様々な間接的な効果や五輪終了後17年間にわたり発生するとされている「レガシー効果」が長期的に累積されている。
これには「水素社会の実現」や「ITS・ロボット産業の拡大」など、オリンピックとはやや距離の感じられる項目も含まれている。そして実際には、東京オリンピックは2兆3713億円の最終赤字を出して終わっている。もちろん、新型コロナウイルスの流行という不可抗力あったことは加味しなければならない。
なぜ、大阪で3回万博が開催されたか
万博を開催することで、費用を上回る経済効果が一定程度発生するとして、それを大阪・関西で行う意義を考えてみよう。大阪は1970年に万博が開催されたというまさに「レガシー」が存在する。しかしこれまで開催された国際的博覧会の歴史を紐解くと、大阪について特徴的なことがわかる。
万博にはこれまで、75年には沖縄県で沖縄海洋博、85年には茨城県のつくば科学博がある。さらに90年には大阪府で花と緑の博覧会が開催され、05年には愛知県で愛・地球博が開催されている。
このようにみると、大阪で博覧会が開催されるのは国内では3回目ということになる。3回はやや多いのではないかと考えることもできるが、もし大阪で万博を行うことによる経済効果上のアドバンテージがあるとすれば、万博の開催を「大阪で」行うことの必然性が存することになる。
ここでは1つの簡易的な検証として、所得に占める消費の割合(消費性向)を見ることとしよう。先に紹介した2.9兆円の経済効果の試算では、個人消費の占める割合が1.37兆円と最も大きかった。経済効果を決定づける要因としては、雇用や生産で増えた所得をどれだけまた消費に回し、次の生産を誘発するかも重要となる。これが消費性向と呼ばれるものである。
